Smiley face
写真・図版
「作家は黒衣の裏方作業。できるだけ顔は出さない方がよいと思っています」と話す小説家の姫野カオルコさん=井手さゆり撮影

 「部屋に行った方が悪い」「その気があったんだろう」――。性暴力事件で被害者の「落ち度」が批判されるのを目にするたびに、「またか」とため息が出る。小説「彼女は頭が悪いから」でそんな社会の「嫌な感じ」を描いた姫野カオルコさんに聞いてみた。なぜ、「またか」は繰り返されるのでしょうか。

「東大生」に集まる関心

 ――2016年に起きた東大生5人による他大学の女子学生への性暴力事件が「彼女は頭が悪いから」の執筆のきっかけとなっています。

 「私がまず気になったのは、事件の報じ方でした。ヘンだな、と思ったのです。どのニュースも『東大生が』と何回も言う。そして、ネット上では事件に対する人々の関心も、『東大生狙いの女のくせに』とか『東大生の未来を奪った』とか、『東大』にあった。私の関心は全くそこにはなく『別のこと』が気になっていました。裁判も傍聴しましたが、事件が終結しても、私には違和感がありました。この違和感は何だろうと考え、それを主題にした物語を作ったので、小説は完全なフィクションです」

 ――気になっていた「別のこと」とは。

 「カップ麺、です」

質の違う「嫌な感じ」

 ――暴行の際にわざと「熱いカップ麺を被害女性の体に落とした」という部分ですね。どうひっかかったのですか。

 「何か臭ったというか……。これまでに報じられた集団レイプ事件や未遂事件などとは違うのではないかと。過去にあったいくつかの事件も嫌な事件でしたが、それらとは質の違う『嫌な感じ』がしたのです。まるで何かをばかにしているかのような……。それで各紙各局のニュースだけでなく、不特定多数からのコメント欄も追ったのですが、『東大生狙い』や『東大生を落としたくて部屋に行った』という被害女性への中傷が多く、よけいに違和感が強くなりました」

 ――性被害者の「落ち度」が非難されることはよくあります。あの事件では、落ち度も「東大」という視点で語られていたということですね。

 「切り取られた断片的な情報だけでは、なぜ被害者が部屋に行ったのか判断できないはずですよね。なのに『東大』『東大』と報じて、『東大狙い』という臆測による批判が出ていました。でも私は『彼女があの場にいたのには何かよほどの事情があったのだろう』と感じました」

 「私が育ったのどかな田舎町…

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