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日本最大級の歓楽街、東京・歌舞伎町には昼夜を問わず多くの人が集まる=2022年1月13日午後6時54分、東京都新宿区、山本裕之撮影
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 新宿・歌舞伎町の大久保公園周辺で売春のための客待ちをしたとして、警視庁が女性4人を売春防止法違反の疑いで逮捕し、24日に発表した。この件で、複数の報道機関が女性たちの顔が分かる逮捕映像や実名を報じたことについて、若年女性の支援を行う一般社団法人「Colabo(コラボ)」が25日、都内で会見し「複数の困難を抱え、性的に搾取されている女性たちをさらし者にしており重大な人権侵害だ」と抗議した。

 25日現在、一部の報道機関は「4人のうち2人が釈放されたため」などとして映像を非公開にしている。

 コラボはこれまで性売買のさなかにいる女性たちの保護や生活支援、脱性売買を支える活動をしてきた。

 代表の仁藤夢乃さんは、女性が性売買にいたる背景には、生活困窮や孤立などの困難を抱える女性を性売買に誘導し、搾取する社会構造があると主張する。「利益を回収する組織があり、女性を管理している実態があるのに、そうした構造には切り込まず、女性個人の問題であるかのような報道が続いている」という。

 今回、一部報道では、逮捕された女性たちについて、複数の外国人観光客から「女性にお金を渡したが、性行為ができなかった」という通報が寄せられていたことも示された。

 仁藤さんは「日本では性を買おうとした男性が警察に行っても逮捕されないことが世界でも知れ渡っているからだ。報道(された映像)でも、女性たちが顔をさらされる一方で、買う男たちの顔は(ぼかしなどで)隠されていた」といい「女性ではなく、社会の構造や買春者に目を向けた報道をするべきだ」と訴えた。

 1956年に制定された売春防止法は売買春を禁じるが、買春行為には罰則規定がない。一方で売る側の「客待ち」や「勧誘」には罰則を科す。

 女性の性被害の問題に長年取り組み、会見に同席した角田由紀子弁護士は、「売防法が女性を見せしめとして摘発するための材料になっている。売る側を取り締まっても性売買は減らない」として法改正の必要性について話した。

上智大学の音教授「社会的制裁としては重すぎる」

 上智大学の音(おと)好宏教授(メディア論) 実名・顔出しは報道の原則だが、軽微な犯罪の場合、すべての事案について名前や顔を出しているわけではない。今回の事案について、公益性や公共性、女性たちの背景などの状況にかんがみれば、顔や実名を出して報じる必要があったとは思えないし、顔はモザイク処理しても事件の概要は十分に伝わる。逮捕されたのは若い人たちで、デジタルタトゥーも残る。このあとの人生を考えると、社会的制裁としては重すぎる。

 (複数の社が同時に取材していることから)他社を見渡し、各社横並びの報道だったことに安心して報じたようにも見える。メディアは公益性や公共性、事案の状況に応じて検討するべきだ。

 おと・よしひろ 1961年生まれ。日本民間放送連盟研究所所員やコロンビア大学客員教授を経て、2007年に上智大文学部新聞学科教授に。13年から上智大メディア・ジャーナリズム研究所所長。

女性たちの顔や実名を報じた主な報道各社は

 報道各社に顔をはっきりと映…

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