疲れ切った表情で男性(62)は自宅のトタン屋根を指さした。長さ50センチほどの穴が開き、周りが少し焦げている。
「写真は撮ってもいいが、私の顔は写さないでくれ。絶対に後ろの山にカメラを向けないでくれ。麻薬カルテルが監視している可能性が高い」
昨年12月中旬のことだった。男性が自宅のすぐ外にいると、突然大きな衝撃がした。音の方向を見ると、屋根の一部と自宅の床が破壊されている。爆発物が屋根を貫通し、爆発していた。後に脅迫状が届き、カルテルによる攻撃だったとわかった。
メキシコ中部ミチョアカン州アパチンガン。近年、カルテル間抗争で治安が急激に悪化している街だ。男性が住む地区から4キロほど離れた山が国内最大勢力の「ハリスコ新世代カルテル」と地元カルテルの戦闘の場になっている。この地区を「前線基地」として使いたい両カルテルが住人に立ち退きを求め、100世帯中30世帯ほどがドローン攻撃に遭っているという。
米国で社会問題の「フェンタニル」を製造するメキシコの麻薬カルテルは、軍隊並みの装備品を持つ犯罪集団です。政府でさえ簡単に手出しができません。なぜこれほどまでに強大な力を持つようになったのか、記事後半で読み解きます。
男性は声を落とす。
「カルテルは山から我々を監視しており、ドローンを飛ばしているのだと思う。幸い死者はいないが、『いつでも殺せる』というメッセージだ。警察は何も対応してくれない。アパチンガンの治安は過去最悪で、カルテルに『ハグ(抱擁)』が通じていないことは明らかではないか」
カルテル間抗争、被害は民間人にも
トランプ米大統領がメキシコに関税を課すとする大きな理由が麻薬「フェンタニル」の米国への流入だ。それに麻薬カルテルが大きく関与している。
カルテルは麻薬の密輸だけで…