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難民の子どもたちから託された手紙を印刷したドレスで登壇し、難民の子どもたちの手紙を朗読するサヘル・ローズさん=2025年6月29日午後3時10分、大阪市此花区の夢洲、水野義則撮影
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 イラン出身の俳優、サヘル・ローズさん(39)が29日、大阪・関西万博の会場で朗読劇を行った。難民になった子どもたちから託された手紙を読み上げ、平和を祈った。

 サヘルさんはイラン・イラク戦争で戦争孤児になった。8歳で養母と来日し、高校生の時から芸能活動を始めた。

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 この日は、難民の子どもたちから託された手紙を印刷したドレスで登壇した。

 「いじめ合うより、みんなの笑顔がたくさんできたら、戦争はおびえて消えていくよ。子供は臆病じゃないけど、大人は臆病だからさ」

 「国の偉い椅子に座ってる大人に戦場を歩かせたい。生き残った人のつらい痛みを知ってほしい。みんなが人を大事にすれば、悪い戦争に人間は勝てるでしょ」

 そんな言葉がつづられた3通の手紙を朗読し、「世の中で起きていることに無関心でいないで」と呼びかけた。

 朗読劇の後には、40カ国(500人)の子どもたちの笑顔がプリントされた直径10メートルのドレスに着替えて登場。「子どもの笑顔が未来の希望」との思いを込め、笑顔があしらわれた約50本の傘も開かれた。

一回だけ魔法が使えたら

 俳優のサヘル・ローズさんが読み上げた3通の手紙の全文は以下の通り。

【臆病な大人へ】

 私はアグ。私の夢は先生になることよ。ここで先生になってみんなに勉強を教えるの。そうしたらいい仕事をして、家族を幸せにできる。勉強しないと、悪い人になってしまうから。それに、勉強しないと、女の子になっちゃった私たちは、すぐに結婚させられるから。

 だから私の一番の願いは、いい人でいたい。女の子として、自分で生きていたい。お父さんよりもずっと年が上の人と結婚させられたくない。私は家族を幸せにしたいの。

 え?一度だけ魔法が使えるのなら?うーん。自分には必要ないから、他の子たちにその魔法をあげたいかな。国と国じゃ友達になれなくても、人間と人間は友達になれるんじゃないかな。いじめ合うより、みんなの笑顔がたくさんできたら、戦争はおびえて消えていくよ。子供は臆病じゃないけど、大人は臆病だからさ。

【平和が笑う】

 ねえもし一回だけ魔法が使えたら、あなたは何に使う?そうだね、爆弾で死んじゃったお姉ちゃんと弟を空から地球に返してあげることかな。

 じゃあさ、戦争のない世界ってどんな世界?それってさ、今の大人が戦争ゲームとして見てるけど、人類全員、大人が経験して分かって欲しい。国の偉い椅子に座ってる大人に戦場を歩かせたい。生き残った人のつらい痛みを知ってほしい。

 みんなが人を大事にすれば、それが共存になって、そうしたら悪い戦争に人間は勝てるでしょ。そうして戦争を空に返してあげて、その代わりに空に行ったみんながこっちに帰ってくる。またみんな家族と暮らせば、平和が笑う。

【大統領になる少女】

 地球に産み落とされた、あなたもあなたも私も、ここを自分で選んで生まれてきたのかな?うーん、そうだね。唐突にごめん。ここっていうのは、地球のことよ。私ね、生まれてきてから、地球は針金の星だと思ってた。だってさ、どこに行っても空に針金がつき刺さっているもん。

 でも、この星の名前が地球で、私たちは地球人なんだって。ならさ、どうして同じ星で、同じ地球人同士が戦うの?戦争に勝っても、別に地球が大きくなるわけじゃないでしょ?どうして偉い人は痛みを忘れちゃうの?地球人の格好をした、宇宙人なんじゃない?

 だからね、私決めてるんだ。大統領になる。だから今、電気もない暗い部屋で勉強してる。ここは地球だけど、地球じゃない。難民の星。捨て去られた地球人が、捨て去られた場所。いつの間にか、血の星が地球のニックネーム。

 私が大統領になったら、地球上の偉い人を1カ所に集めて、亡くなったおばあちゃんのあずきスープを作って、みんなに振る舞うんだ。そうして座って、みんなで話し合うの。だって私たちは、対話してないもん。

 互いに話したり、見たり、感じたり、相手も同じ地球人なんだから、分かり合えなくても、何かが共有できるんじゃないかな。どう思う?甘いかな、私の考え。

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