(14日、第106回全国高校野球選手権大会 2回戦 西日本短大付―菰野)
通常より2~3メートルほど打者に近づき、思いっきり速球を投げ込む。「気持ちよく打たせても意味がない」。西日本短大付の打撃投手、兼次愛斗(まなと)さん(3年)の流儀だ。
自身の練習とは別に、1年夏から打撃練習で投げ始めた。気持ちよく打ってもらえるスピードを意識した。でも本番では、どの投手も全力で勝負してくる。「『打ちごろ』の球で練習になるのかな」。疑問を持ちながら続けた。
今年5月、報徳学園(兵庫)と練習試合で戦ったのが転機に。今春の選抜で同校を準優勝に導いた今朝丸裕喜投手(3年)らを前に、打線は精彩を欠いた。思えば、昨秋と今春の福岡県大会でも、好投手を擁する福岡大大濠に敗れていた。
近い距離から、「全力で投げる」と決めた。
最初は「打ちにくい」と文句も言われた。でも、無視。続けると、「今朝丸がそこにおる!」。意図がチームに浸透していった。
7月の福岡大会で、チームは7試合中6試合で2桁安打。決勝では福岡大大濠から5点を奪い、勝ち切った。「優勝に貢献できた」と思う。
本当は、試合で投げたかった。横手投げに変えたり、直球の威力を増す工夫をしたり。試行錯誤したが、背番号には届かなかった。この夏、母に電話で伝えた。「メンバーから外れた。2年半ありがとう。ごめんね」。「後悔がないならいいよ」。悔しいが、チームに尽くすと決めた。
甲子園入り後も、打撃練習で全力投球を続ける。鋭いスイングで打ち返す仲間を見て、「頼もしい。怖いとすら思う」。このメンバーなら絶対、優勝できる。そのために、日本一のサポートを続けるつもりだ。(太田悠斗、石垣明真)