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ミーティングで話す山梨学院の梅村団主将=2025年8月21日、大阪府吹田市、山本達洋撮影
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 第107回全国高校野球選手権大会(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)で、山梨学院は沖縄尚学に惜敗し、決勝の舞台にはわずかに届かなかった。だが、切れ目ない打線は相手を圧倒し、強力な「ダブルエース」の投球は多くの甲子園ファンを魅了した。山梨学院の今夏の戦いを、担当記者が振り返る。

 21日午後、沖縄尚学との熱闘を終えて大阪府吹田市の宿舎に戻った選手たち。大会最後のミーティングで、吉田洸二監督は「監督の本音を言うとね」と前置きして、話し始めた。

 「君たちの前では高い目標に向かっていくと言いながら、甲子園で(一つ勝って)校歌を歌いたいなと思っていました」

 「きょうの試合、どうだったから負けたとか、そういうの一切なし。沖縄尚学が素晴らしかったと、本当にそう思った」

 梅村団主将(3年)は、選手を前に「ベスト4まで来られたのも、この仲間に恵まれたからだと思います」。そして、後輩にこう夢を託した。「俺たちの成績を絶対に絶対に超えないといけないし、絶対できると思う。きょうの悔しい思いを明日あさってから、練習に全力でぶつけて」

 昨秋以降の実績から、山梨大会では頭一つ抜けた存在として本命視された。それでも猛暑のなか4試合を戦い、選手たちの疲労はたまっていたのだろう。3日の抽選会で大会7日目2回戦からの出場が決まると、吉田監督は「最高の日程ですよ」とにんまりした。

 初戦は、福島代表の聖光学院と対戦した。エースの右腕・菰田陽生投手(2年)が先発し、七回途中まで投げて1失点。長身から投げ下ろす角度と球威がある直球を駆使し、六回まで無安打の好投を見せた。左腕・檜垣瑠輝斗投手(2年)が継投し、追撃を抑えた。

 打撃では中盤以降、バントの構えからバットを引いて打つ「バスター」を多用した。打つべき球をしっかりと見極め、七回に勝ち越しに成功。八回には長短5本の集中打で突き放した。

 岡山学芸館との3回戦では打線が大爆発した。2点先行の五回には、敵失や4番横山悠選手(3年)のスクイズ、萬場翔太選手(3年)、菰田選手、田村颯丈郎選手(3年)の長短打など打者一巡の猛攻で一挙6点を追加した。

 14得点17安打は、いずれも低反発バット導入後の最多記録を更新した。昨秋からウェートトレーニングや食事を充実させ、肉体改造によって「打てるチーム」を目指した努力が開花した。

 準々決勝は、連覇を目指した京都国際との対決となった。昨夏の優勝投手・西村一毅投手(3年)の際どい変化球を見極めて打ち崩した。1点を追う二回、横山選手のソロ本塁打を手始めに5安打と攻めたてて5点を奪って逆転に成功。五回には菰田選手が走者一掃の三塁打で突き放した。

 2試合連続で2桁安打と2桁得点を記録。県勢として13年ぶりの4強入りを決めた。この試合で檜垣投手は得意のスライダーやカットボールが130キロ台に上がり、「自分でもびっくりした」と甲子園での成長ぶりを語った。

 県勢初の決勝進出をかけた準決勝は、沖縄尚学と互角の戦いを展開した。同点の五回には鳴海柚萊(ゆずき)選手(3年)、宮川真聖選手(3年)、梅村主将の3連打などで勝ち越しに成功。九回には2死から梅村主将と横山選手が安打で出塁し、後続は断たれたものの粘りを発揮した。

 横山選手は第1打席で右前適時打を放ち、聖光学院戦の第4打席から始まった連続打数安打を大会タイ記録の8に伸ばした。

 伝統の巧みな走塁に加え、吉田監督が目指した「打てるチーム」とは、主砲の一振りではなく、みんながつないで打ち勝つチームだ。そんな山梨学院の変貌(へんぼう)を甲子園の4試合で世の中に印象づけた。菰田、檜垣両投手も大会を通じて経験を重ねた。左右の「ダブルエース」は、新チームでも看板のひとつになる。

「よくやった」拍手で出迎え

 山梨学院の選手たちは22日、バスで山梨に戻ってきた。選手たちがバスから降りてくると、高校の生徒や関係者らが「よくやった」と拍手や声援で迎えた。

 山梨学院高(甲府市)であった帰校式で、吉田洸二監督は「もしかしたら優勝するんじゃないかと言われていたが、それだけ(選手は)力をつけた」とねぎらった。梅村団主将は「本当に長い夏になった。1、2年生は絶対に自分たちの借りを返してくれると思う」と話した。

 大会タイの8打数連続安打を記録した横山悠選手は「4番らしく、チームの勝利に貢献する勝負強い打撃を頭に置いた結果。本当によかった」と振り返った。

白球追った球児らに感謝 担当記者コラム

 見て。聞いて。野球は楽しい。

 仕事の合間を縫って、甲子園の外野席から家族と試合を観戦した。硬式野球を続ける中学生の息子の感想は、「体が想像以上に大きい」。その後、ご飯をおかわりすることが多くなった。

 甲子園での取材は、基本的に内野席からだ。「ドスッ」。エース菰田陽生投手が投げ込むと、ひときわ重い捕手のミット音が響いていた。その迫力ある音に長い努力の跡を感じた。

 山梨学院は準決勝で惜敗した。ただ、グラブさばきや配球の妙など記録に残らない数々の素晴らしいプレーは、観衆の心を揺さぶり、脳裏に焼き付いた。

 最後まで白球を追った選手たちの姿は、情熱を持ち続ける美しさを教えてくれた。感謝したい。

 選手たちの一途さが、少しでも多くの人に伝わっただろうか。そうだとしたら、担当記者としてこれ以上うれしいことはない。

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