提出物を出すのがいつも早い――。滋賀県高校野球連盟も認める先生が、県内の高校の硬式野球部にいる。どんな先生なのか。
記者は滋賀の高校野球を担当して3年目。毎年、夏の滋賀大会(県高野連、朝日新聞社主催)を前に、県高野連に加盟する53校にアンケートを行っている。
5月、そのアンケートの回答が記者に届き始めて、ある学校の回答が毎年早いことに気がついた。
県高野連に対してもそうなのか。確認すると、担当者は「高野連への提出物や高野連が加盟校に依頼する調査があるが、なんでも早い。いつも1番に提出してくる」と明かした。
その学校は、彦根総合高校(彦根市)。提出物は、部長の北村謙知さん(30)が担っている。
「性格です。提出せずに持っているのが嫌なんです」。北村さんはそう言って、苦笑する。だが、記者は、性格だけじゃないはずだ、と思って質問を重ねた。
北村さんは草津高校(草津市)でプレー。大学卒業後、彦根総合高校の教諭になった。硬式野球部の部長を務めて7、8年。名将の宮崎裕也監督(63)らと生徒を指導する。
練習試合の予定を組んだり、生徒を病院に連れて行ったり、練習ではノックを打ったり――と、部長はとにかく忙しい。「何か起きても対応できるように、先を見越して、提出物などはできるときにすぐにやるようにしています」
チームは2023年春に甲子園に初出場した。出場に際しては、多くの書類を提出しないといけなかった。「ギリギリに提出したり遅れたりしたら甲子園で迷惑をかけるから、余計に早く提出しました」と振り返る。
県高野連の理事を務めた経験もある。だから、提出物が遅れたら、受け取る側に迷惑がかかることも知っている。そしてなにより、がんばっている生徒たちに迷惑をかけてしまう。それが一番いけない――。提出物を出すのが早い裏側には、いろんな思いがある。
「提出物は早く出すように」。生徒たちにもそう言っている。提出物を早く出せば、気持ちに余裕ができて、いいアイデアが生まれる、と考えているからだ。
そのために生徒を「120%」サポートする。担任を務める2年生の教室には、自作の提出物確認表を掲示。提出したものには生徒がシールを貼って「見える化」している。
このクラスの生徒で野球部員の北山駿さん(2年)は「提出物確認表を作ってくれた先生は初めてで、自分たちのために尽くしてくれる。心も熱いから、ついて行きたいって思えます」と話す。
先生たちの信頼も厚い。学年主任の山本浩之さん(36)は「提出物は(7クラスある)学年の中でも早い。先を考えて仕事をしているし、生徒のために目に見える形で工夫もしています」と語る。
「生徒のためであり、自分のためでもあります。指導者ですが、親の感覚で生徒に関わっています」と北村さんはいう。野球部の生徒が、スポーツ推薦を受ける大学に書類を提出するときには、郵便局まで付き添って見届けてきたという。
「周りを常に見て、目を走らせて、チームを運営するのが部長」という県高野連の先生に言われた言葉を肝に銘じている。部長は大変な仕事だが「生徒ががんばってくれるのが一番うれしい」。甲子園でプレーする生徒たちを再び見るのが、北村さんの願いだ。