北海道内有数の米どころ・上川盆地に広がる田園地帯。
田植えの季節は、はるか大雪山系の水があたり一面の田んぼを潤し、水面には青空が反射する。
この美しく肥沃(ひよく)な大地で、久保宣夫さん(72)=東神楽町=は祖父の代から3代にわたり続く専業農家だ。主力はコメで、最上級のブランド米として知られる「ゆめぴりか」や「おぼろづき」を手がけている。
就農から半世紀以上が経つが、探究心は尽きない。仲間と定期的に勉強会をし、旅行に出れば、必ずその土地のコメを買い求めて食べる。自慢のコメを語る表情からは、情熱とプライドが伝わってきた。
ただ、久保さんは「農家は、自分の代で終わり。後継者は作らない」のだという。
「だって、夢を持って経営ができんしょ」
「令和の米騒動」による米価高騰が消費者に大きな影響を与えています。一方、生産者はこの状況をどう受け止めているのでしょうか。久保さんは「『やっと借金を返せる』と安堵している農家は多いのでは」と指摘します。
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北海道米は飛躍も…変わらぬ手取り
一昔前は「猫またぎの米」「やっかいどう米」などとも揶揄(やゆ)された北海道米。2000年度以前は道内食率が4割を切ることもあった。近年は、品種改良や生産者・関係者の努力などで大きく飛躍し、道内食率は9割近くで推移。日本穀物検定協会「食味ランキング」では、複数の品種が最高位「特A」を安定して獲得している。
ただ、久保さんによると、評価が上がっても、コメ1俵(60キロ)あたりの生産者の手取りは増えていない。近年はおおむね1万4千円前後で推移し、安いと1万円、高くて1万5千円程度だったと振り返る。
一方で、物価は上がった。肥料、農薬、ビニール、燃料……。生産に必要なあらゆる資材が年々高騰し、2倍近くになったものもある。農機具も高い。高性能のコンバインは2千万円という時代だ。しかも、気候変動の影響で面積あたりの収穫量も減少傾向にある。
「いくら経費を節減しても、コメを農協に出しているだけだったら、食べていくのが精いっぱい。よっぽど頭を使って自前で売るか、耕地を広げていかないと、もうけられない」
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