東京で、中国人による中国人向けの書店や出版社が次々と開業している。「潤(ルン)」と呼ばれる中国富裕層らの流入や、日本に根付いた中国人社会の変化を象徴する現象で、関西にも広がりつつある。日本での商機を見いだした人、自由な活動を求めて来日した人。理由は様々だ。
がらんとした雑居ビルの一室に置かれた、最低限の机と椅子。壁際には新品の本が積み上げられている。中国語の書籍の出版社「読道社」は昨年から、東京都日野市に事務所を構える。
立ち上げたのは張適之さん(47)。北京の出版業界で約20年働き、年間7億冊を出す国営の出版社で副社長まで務めた。
来日は3年前。中国で小学校に通う2人の娘が、朝から晩まで勉強に追われる姿に「将来、この子たちを熾烈(しれつ)な大学入試競争にさらしたくない」。より良い教育環境を求め、旅行に来て好印象だった日本へ一家で移住した。
中国人向けの出版社 なぜ日本で?
自身も、北京での仕事に手詰まり感を覚えていた。政治とは無縁の生活を送ってきたが、母国では仕事や日常生活で交わす会話は、中国社会に対するポジティブで聞こえの良い言葉ばかり。中国の急速な発展を体現していて素晴らしい、民族の自信を強化できて価値がある――そんなセリフを耳にする度に、息苦しさを感じてきた。
今、中国では、ポジティブであることを意味する「正能量」なニュースや作品が評価される傾向にある。現実社会の問題を覆い隠してしまうのではと、出版人として違和感があった。
来日当初、周囲には、日本で…