「数学のノーベル賞」と言われるアーベル賞の受賞が決まった京都大学数理解析研究所特任教授の柏原正樹さん(78)が27日、京大で会見した。つるかめ算に魅了されて数学の道へ進んだ柏原さん。恩師との思い出や数学の魅力を語った。
「創造せよ」 衝撃を受けた「佐藤幹夫の数学」
アーベル賞の日本人の受賞は初めて。柏原さんは「50年を超える研究全体が高く評価されたのだと感じて、とてもうれしい。多くの共同研究者に恵まれたことが、私の数学研究を豊かにしてくれた」と喜びを語った。
柏原さんは1947年、茨城県生まれ。代名詞である「D加群(かぐん)」の理論は、23歳で書いた修士論文が出発点だ。代数解析学の中核理論で、のちに現代数学の基本ツールの一つとなる。
当時指導を受けたのが、「サトウのハイパーファンクション」などで有名な世界的数学者、佐藤幹夫さん(1928~2023)。東大生の時に聴いた講義に衝撃を受けて師事し、佐藤さんの後を追って京大に移った。
学んだのは「新しいものを創造すること」。数学にはまだまだ新しいものがあると気づいた。「新しいことに挑戦していくことは大事なこと。私の数学研究の大きな糧になった」と語った。
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「日本と南極を結ぶような壮大な橋を築いた」
数学は、数の性質を扱う代数学、微分積分などの解析学、図形や空間を扱う幾何学の3分野に大きく分かれる。柏原さんが築いたD加群は、解析と代数を結びつける道具となり、微分方程式の難問「リーマン・ヒルベルト予想」を解決するなど威力を発揮した。
さらにD加群を発展させ、幾何もつなげた。「まるで日本と南極を結ぶような橋を想像してほしい。柏原さんは、独創的な思考で数学の世界をまたぐ壮大な橋を築いた」と、受賞を決めたノルウェー科学文学アカデミーはたたえた。
会見に同席した京大高等研究院長の森重文さんは「代数、解析、幾何の分野の境界がなく、発想が自由なのがすばらしい」。数理研所長の大木谷耕司さんは「重要な問題を峻別(しゅんべつ)する能力にたけている。鼻が利くところは佐藤さんも同じで、それを引き継がれた」と語った。
■「元々ちょっとした計算が好…