日本最古の芸術系大学で140年以上の歴史がある京都市立芸術大学(京都市下京区)が、JR京都駅に近い崇仁地区に移転してから10月で1年を迎えた。赤松玉女(たまめ)学長に、新キャンパスの現状や新たな大学像「TERRACE(テラス)」について聞いた。
――「テラスのような大学」とは、どんな内容ですか。
まちに開かれた「テラス」をイメージしています。そして移転は「ゴール」ではなく、「新しいスタート」ととらえています。
京都市立芸大は1学年が美術学部と音楽学部を合わせて200人の小規模な大学です。だからこそ教員との関わりは密で、自分の意見をキャッチしてもらいやすく、コミュニケーションが取りやすいです。
卒業後は、アーティストになる人ばかりではなく、社会のさまざまな分野で「アーティストの視点」を持って活躍している人がたくさんいます。そんな人材を求めているという声を企業や組織のトップから直接耳にしています。
「芸術」とは、美術、音楽ともに、常識とは異なる視点を提供するものだと考えています。鑑賞者は作品を見たり、演奏を聴いたりして、驚いたり、想像していなかったものが目の前に表れたりすることを通して、そうした視点を共有できます。
芸術作品は、工業製品のようにすぐに役立つものではないかもしれません。でも、目や耳からそういった刺激を受けて「時には理解できなくとも、体感する」というのが芸術だと思うんですよね。
お互いの価値を尊重
――芸術大学の魅力とは何でしょうか。
この大学では「世間の物差しでは測れないもの」が学生たちの手によって未熟な状態で生み出されていますので、さまざまな人に異なる価値観を知っていただくのにぴったりな場所だと考えています。
多様な社会、多様な価値観といってもすぐに理解し合うことは難しいと思います。でも、お互いの価値を尊重し、「こんな考え方があってもいい。あって当たり前だ」ということを伝えるのが芸術の大きな役割の一つではないかと感じています。
芸術に触れることで、そんな風にもう一つの視点、日常から浮いた視点を持っていただけるのが、私たちの目指す「テラスのような大学」なのです。
私も学生時代から四十数年間、沓掛キャンパスで過ごしてきました。その間に培ってきた歴史を生かしながら進化していきたいと思っています。
――地域とのつながりも始ま…