奈良県明日香村奥山の奈良文化財研究所飛鳥資料館は、今年で開館50周年を迎えた。建物の基本設計を担ったのは、著名な建築家の谷口吉郎氏(1904~79)だった。「日本の原風景」とも言われる飛鳥の景観を損なわないように配慮されたデザインは、日本建築の伝統を受け継いだ和の造形にモダンさを採り入れており、50年経った今も色あせていない。
飛鳥に歴史資料館が誕生した背景には、戦後の高度経済成長による都市化の波が明日香村周辺にも迫ったことが挙げられる。古都・飛鳥という歴史的風土と遺跡・文化財の保存をめぐる問題が全国の人々の関心を集め、中央政界にもこの動きは広がった。飛鳥を守ろうという機運が高まり、1970年12月の閣議決定で国の政策として歴史資料館の村内設置が決まった。
文化庁は専門家らによる設置準備会議を設け、施設の建設や展示などの基本構想を検討。71年度から用地買収し、翌年度に奈良国立文化財研究所(当時)が敷地内を事前に発掘調査したところ、7世紀の石組み地下水路がみつかった。この遺構を保存するために建物の平面や配置の設計を一部変更し、75年3月に開館した。
基本設計は、東京工業大学名誉教授だった谷口氏が担当した。谷口氏は、伝統的な木造文化に根ざした近代的建築物を多く残したことで知られ、文化勲章を受章。帝国劇場や東宮御所のほか東京国立博物館東洋館や東京国立近代美術館などの著名な博物館の設計も手がけた。
和のなかにモダニズム
敷地は、歴史的景観を損なわ…