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「昭和16年夏の敗戦」猪瀬直樹さんに聞く

 日米開戦前夜、軍官民各界のエリートがひそかに首相官邸に集められた。彼らの精密なシミュレーションの結論は「日本必敗」――。この史実に光を当てたのが、若き日の猪瀬直樹さんが著したノンフィクション「昭和16年夏の敗戦」(1983年刊行)だ。8月16、17両日にNHKでドラマ版が放映される。作中描かれるのは、意思決定の主体が見えず「責任」も集団の中に融解し、あたかも「空気」が開戦を呼び込んでゆく流れだ。ネット上のきな臭い言説が再びあらぬ空気を醸成しつつある今、それを打破する手立てとは。

写真・図版
作家の猪瀬直樹さん

30代の俊英「模擬内閣」の苦い夏

 1941(昭和16)年春、勅令で半年前に設立された首相直轄機関「総力戦研究所」に、陸海軍と各省の他、日本銀行や日本郵船、同盟通信など民間から選抜された30代の逸材が招集された。彼ら35人の使命は文字通り「総力戦」の研究。「模擬内閣」を組織し、石油資源を求めて南方に侵攻し米国との開戦に至る想定で机上演習(シミュレーション)を行った。出身母体の極秘データも持ち寄り、激論のすえ導き出したのは――。

 〈奇襲が成功し緒戦は優勢で…

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