昨年92歳で亡くなった詩人の谷川俊太郎さんが生前、朝日新聞のインタビューで語った言葉と、残していった詩やエッセーを組み合わせた本「行き先は未定です」(朝日新聞出版)が7日に刊行されます。死ぬっていうのはどういう感じなのかな――。亡くなる2週間前、記者にそう語っていた谷川さんが見ていた「死」とは。40年近く親交のあった医師の徳永進さん(77)に聞きました。
詩に支えられる、矛盾だらけの臨床
私は「死を待つ人の家」を作りたいと思って、2001年に鳥取市でホスピスケアをする「野の花診療所」を開きました。1年後に谷川さんがここへ来て、壁にいくつか詩を書いていってくれた。怪しい診療所だけど、詩があるおかげでみんなの信頼を得られているんです。
そうっと そっと
うさぎの せなかに
ゆきふるように
そうっと そっと
たんぽぽ わたげが
そらとぶように
そうっと そっと
こだまが たにまに
きえさるように
そうっと そっと
ひみつを みみに
ささやくように
(「そっとうた」)
診察室には、とても軽やかな詩を書いてくれた。生死に関する重い話もする部屋だけど、人の生死と、うさぎの背中に雪が降っている景色のあいだに、そんなに大きな差はないよと教えてくれている感じがします。
「行き先は未定です」のなかで谷川さんは、「説明してわかるもんだけじゃないんだ世界は」と言っています。
医療者は人道主義や使命感を教え込まれるんですけど、それだけでは臨床はやっていけない。規範や理想ばかりでは疲れてしまうんです。
「早く死なせてくれ」と言っ…