モスクワで2023年5月9日、対独戦勝記念日の軍事パレードを前に、アルメニアのパシニャン首相(右)と会談するロシアのプーチン大統領=ロイター
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 ロシアのウクライナ侵攻が始まって2年以上が過ぎた。内閣府の世論調査では、ロシアに「親しみを感じない」と答えた人が95%を超え、過去最高になった。問題解決の糸口が見えない中、ロシア文化とどう向かい合うべきか――。栃木県出身で、文豪ドストエフスキーの五大長編を翻訳した名古屋外国語大学の亀山郁夫学長(75)に聞いた。

 ――翻訳の仕事は苦行と言われています

 楽しいということはほとんどない。精神科医が、患者の言葉をじっくりと聞いていくような感じです。ドストエフスキーの小説に登場する人々は、どこか影を持って生きている。そういう人の心の内部からほとばしる言葉を一つ一つ聞いていく。それを血が通った言葉にして他者に伝えるという「媒介者」の役割だ。

 ――具体的に、どのような苦労があるか

 自分で分かったというのではなく、いかに伝えるかというところに、ものすごい苦しみがある。

 現代の生きた言葉で、原文の持っているリズムと内容を、身体感覚として体験できるような訳文に作る。逸脱は許されないが、日本の作家が書いたような文章に仕上げていく。読者を飽きさせず、映画を見るように、至福の時間を作りたい。最後まで読み切らせることに、大変苦労する。

 ――初めてドストエフスキーを手にしたのは

 中学3年生の時。父が私たち子どものために、世界の文学というシリーズを買いそろえた。父を驚かしたいといった気持ちがあり、この中の一冊を読んでみようかと思って、たまたま右から3冊目を手に取ってみたら「罪と罰」。法律の本かなと思って読み始めた。10ページ読んだら面白いと思い、没入していた。

 殺人の場面を読んだ翌朝、自…

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