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 計り知れない価値を生み出す一方、社会に新たな問題や懸念をもたらしつつあるAI(人工知能)。倫理や法律の観点から科学技術と向き合い、課題解決をめざすELSI(エルシー)の役割について考える「ELSI大学サミット」が15、16の両日、東京都内で開かれた。大学や政府、メディアが果たす役割と、その連携の重要性について、研究者や経営者らが話し合った。

(中央大ELSIセンター、大阪大社会技術共創研究センター主催、朝日新聞社など後援)

  • 世界の概念を理解し始めたAI「人の情動どう組み込まれるか解明を」
  • 生成AI登場で生じた技術と社会のギャップ 法ではないよりどころは

 特別セッション「先進生成AIのグローバルな展開」では、政府担当者らが、AIのガバナンス(統治)や安全性確保の最新の取り組みを紹介した。

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総務省の飯田陽一・情報通信国際戦略特別交渉官

 総務省の飯田陽一・情報通信国際戦略特別交渉官は、主要7カ国(G7)や経済協力開発機構(OECD)などでのAIガバナンスの歴史を解説。2016年にG7議長国を務めた日本で議論が始まり、日本主導の議論が現在も底流にあることを明かした。最前線で国際交渉に当たる飯田氏は「国内の研究者の方々の議論が今もベースにあり、誇りに思っている」と述べた。

 より強い法規制については、昨年5月にAI法を成立させた欧州連合(EU)がリードしてきたとしつつ、強い規制によって「自縄自縛な状態にある」と指摘。AI開発との両立を見据えた再調整の動きもあるとの見方を示した。

 昨年2月に政府に設置された「AIセーフティ・インスティテュート(AISI)」の平本健二副所長も安全性について講演した。

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AIセーフティ・インスティテュートの平本健二副所長

 約10カ国のAISIで連携するなど、技術面からAIの安全確認を急いでいると説明。「AIサービスを展開するのはグローバルな企業。日本企業がグローバルに出ていくためにも、安全性の議論は国際協調が重要だ」と述べた。

 情報通信研究機構(NICT)からは、日本語の生成AIを開発した鳥澤健太郎フェローが登壇。AIの安全性の研究で、AIが自らを削除する計画を社内文書から察知し、抵抗する動きがみられたとする最新の事例を紹介した。

 「AIが自己保存をしようとしたのか。強力なAIならこういうことも起きうる。感情らしきものを持つ可能性は否定できない」

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シンポジウムで話す情報通信研究機構の鳥澤健太郎フェロー=2025年3月15日、東京都文京区、友永翔大撮影

 さらに、人が書いた文章と見分けがつかない文章を、大量にAIが生成できるようになっているとして、「有事の前後に日本語で大量のフェイクニュースをばらまかれる悪夢のような状況もありうる」と指摘。対抗策としても、国産でのAI研究が欠かせなくなるとの見方を示した。

 特別セッション「科学と社会のあり方―未来に向けて」では、朝日新聞社の角田克社長が「AI時代のジャーナリズム」と題して講演。AIを使った膨大な論文の解析など、取材や記事の作成でも活用していることを紹介した。

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シンポジウムで話す朝日新聞の角田克社長=いずれも2025年3月15日、東京都文京区、友永翔大撮影

 その上で、記者が一次情報にあたる深い取材力がますます重要になると強調。政治とカネをめぐる報道などを例に「勘を持ち、かぎとって、チームとして取材できることが強みだ。AIが探してくることはできない」と語った。

 一方、急速に発展するAIについて「技術面など、監視することも大事だ」として、「産官学と社会をつなげるのがメディアの大事な役割になる」との考えを示した。

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