加美農―気仙沼 九回、2死満塁の場面を三振で抑え、喜びを爆発させる加美農・星=2025年7月13日午後1時21分、仙台市民、三村悠撮影

 (13日、第107回全国高校野球選手権宮城大会1回戦 気仙沼3―2加美農=延長十回タイブレーク)

 加美農の増子晴琉主将(3年)とエースの星迅乃丞(じんのすけ)投手(3年)は、ともに過去の自分を「本当にわがままだった」と振り返る。

 どちらも野球経験者で、チームを引っ張る存在。24人の部員のうち6人が初心者の加美農で、2人ともチームメートのミスにいらつき、つい口調が強くなった。考え方の違いから、互いに言い合うこともあった。

 しかし、練習試合で負ける度に「一人では勝てない」との思いがわき上がっていく。

 そして、迎えたこの日。加美農は、最後まで全員で戦い抜いた。

 七回裏の気仙沼の攻撃を星投手が三者凡退で抑えると、加美農ベンチは一気に熱を帯びていく。

 1点差を追う八回の先頭打者は、前の打席まで「力が入ってガチガチ」だったという増子主将。

 ふと、応援席に目を向けた。弟が所属する少年野球チーム、加美農の同級生、保護者ら大勢の人たちが、声をからして応援する姿が見えた。

 肩の力が抜け、落ち着きを取り戻した。すると、この試合自身初の安打を放った。味方の犠打などで三塁まで進むと、4番武田寛希選手(2年)の右前適時打で同点に追いつく本塁を踏んだ。

 九回裏には、星投手が2死満塁のピンチに追い込まれる。その直前、増子主将が星投手にかけた言葉は「楽しんでいこう」。自信のある直球を投げ込むと、空振り三振。喜びを爆発させた。

 だが、試合は延長十回タイブレークでサヨナラ負け。加美農として16年ぶりの宮城大会勝利がかかった試合だった。

 試合後、増子主将は生還の瞬間を「『全員でつないだ1点だ』と思うと、興奮で鳥肌が立った」。星投手は「九回裏に取った三振は今までで一番」とそれぞれ振り返った。

 惜しくも勝利には一歩及ばなかったが、増子主将は「やりきった。自分についてきてくれた部員に感謝している」。星投手も「悔いはない。勝利は後輩への宿題」。涙を流す後輩たちへエールを贈った。

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