(6日、第107回全国高校野球選手権大会1回戦 沖縄尚学1―0金足農)
相手のブルペンから背番号1が小走りでマウンドへ向かってくる。
球場がどよめくと、沖縄尚学ベンチからも歓声が上がった。
「よっしゃー」「来たぞ、来たぞ」
五回、2死三塁の先制機。ここで大会注目の本格派右腕・金足農のエース吉田大輝が登板した。この回は抑えられたが、選手たちの表情が一気に明るくなった。
主将の真喜志拓斗が理由を明かす。「100%、吉田君が先発してくると思っていたんです」。対戦が決まった3日の抽選会以降、毎夕食後に宿舎の一室に集まり吉田の映像を繰り返し見てきた。
ところが、ふたを開けてみれば、相手先発は技巧派左腕の斎藤遼夢だった。「えっ?となった。みんなの顔も青ざめて」と真喜志。吉田とは正反対のタイプに四回まで無安打。2番手左腕も打ちあぐねていた。
上位打線に回った七回、1死から口火を切ったのは寝る直前まで自室でも吉田を研究したという3番比嘉大登だ。「外の変化球に手を出さず、直球を狙う」。そのとおり141キロを中前へ。チーム初安打で出塁すると、2死後にスタートを切った。「重心が一度、左足に移ったら牽制(けんせい)はない」。映像から癖を見抜き、選手同士のグループLINEで情報を共有していた。それを思い出し、公式戦初盗塁を決めた。
真喜志も直球を左前へ。一、三塁と好機を広げると、マウンド上の右腕が首をかしげた。「真っすぐが合わされている」。そのしぐさを続く阿波根(あはごん)裕は見逃さない。「なんか変化球が来そう」。115キロのチェンジアップが浮いたところを引っぱたく。左前適時打で均衡を破った。
2年生エースの末吉良丞が完封でこの1点を守り切った。比嘉は誇らしげだ。「自分たちの成長を実感できた試合だった」。南の島で育んだ観察力と集中力を、大舞台で発揮した。目標の「春夏通算甲子園30勝」まであと2勝だ。