かばんの街として知られる兵庫県豊岡市。旅行かばんや収納具として愛用される柳行李(やなぎごうり)をはじめ、コリヤナギや籐(とう)などを使って作る「豊岡杞柳(きりゅう)細工」の技法を受け継ぐのが、工芸士の加藤かなるさん(30)。ランプシェード、お弁当箱など、いまの暮らしに溶け込むような新しい作品作りにも力を入れている。
旅行鞄として愛用される柳行李
豊岡市旧市街地の一角に古民家がある。ここに工房を構える加藤さんのブランドは「KORI ANRI JAPAN」という。
「これは欲しい! 各地の落語会に行くときにぴったりです」。桂天吾さんが手に取ったのが、加藤さんが作製した行李鞄(こうりかばん)。柳行李に革ベルトと取っ手を加え、旅行鞄として愛用されている。
のみの市やネットなどで安価で出回っている古物とは違って、加藤さんの行李鞄は完全オーダーメイド。コリヤナギの栽培から加工、作品に仕上げるまでの過程をすべて自分で担う。価格は20万~30万円ほどと決して安くはないが、「新品の柳行李は100年持つ」(加藤さん)。本物志向の人たちに人気という。
地域おこし協力隊の職人募集に応募
加藤さんは高校卒業後、両親のすすめもあって、ドイツに渡った。コーヒーを入れる職人「バリスタ」などの仕事をしながら7年間現地で暮らし、2020年に帰国した。
日本各地を知ろうと旅行するなかで豊岡市を訪れ、地域おこし協力隊の職人募集に応募した。柳行李の伝統工芸士のもとで修業を始め、初日から柳行李を編む作業に取り組んだ。
「落語でも、入門3カ月ぐらいで師匠から『やりながら覚えなさい』と言われます」と天吾さん。加藤さんは「技術を吸収するために、毎日必死で取り組みました。1カ月ぐらいで、ある程度形ができるようになりました」と振り返った。
そして、加藤さんは2年が過ぎたころ、師匠に「独立します」と宣言した。天吾さんは「落語界で、師匠に自分から独立すると伝えるのはありえないです‼」と驚いた様子。加藤さんは「将来を考えたうえでの決断でした」と話した。
魅力ある職業だと伝えていきたい
豊岡では古くからコリヤナギが自生し、柳細工作りが盛んだったそう。江戸時代に豊岡藩の奨励を受け、豊岡の柳行李が全国に広まった。
柳行李の制作は、柳の皮むき、乾燥、行李の種類に合った柳の選別、麻糸を通す編み作業など、根気のいるものばかり。重労働だが「作っているときはめちゃめちゃ楽しい。追われている時ほど充実していたなということが多いです」。
柳行李は千年以上の歴史がある伝統工芸品だが、プラスチック製品の広がりなどで需要が減り、後継者不足も課題。でも、加藤さんは「商材をアップデートしてこなかったことが問題。新しいものを作り、いろんな所に出て行って認知度をあげ、魅力ある職業だと伝えていきたい」と意気込む。
天吾さんは「応援しています。行李鞄を買えるよう、私もがんばって仕事します!」と話していた。
職人のプロフィール
かとう・かなる 1995年、大阪府生まれ。子どもの頃から物作りが好きで、工業高校の時には木製の滑り台を作って幼稚園に寄付した。
連載「桂天吾がゆく 伝統を受け継ぐ職人たち」
伝統文化の担い手が減るなか、その道に飛び込み、継承しようという若手職人たちがいます。関西で注目の落語家・桂天吾さんが現場をたずね、その思いを紹介します。