一般社団法人「核兵器をなくす日本キャンペーン」の配信動画で現地での活動を報告する徳田悠希さん=YouTubeから

 米ニューヨークの国連本部で3日に始まった核兵器禁止条約の第3回締約国会議が閉幕した。最終日の7日には「不安定化する世界情勢のなか、核兵器なき世界への決意を強化する」との政治宣言が採択された。

 宣言には「核兵器のない世界を実現するための努力と、核兵器が二度と使われてはならないことを証言を通じて示した功績により、ノーベル平和賞に選ばれた日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)を祝福したい」との文言も入った。

 市民社会も活発に動いた。一般社団法人「核兵器をなくす日本キャンペーン」は連日、現地に渡った団体の報告を動画で配信。最終日は、ジェンダーの視点から会議で発言した「GeNuine(ジェヌイン)」の徳田悠希さん(23)が報告した。広島・長崎の被爆者がその後の人生で向けられた差別にはジェンダー格差が絡むと指摘。「ジェンダーが理解されてこそ(核被害者への)援助が機能すると訴えた」と振り返った。「日本と世界をつなぎながら核禁条約を育てることを模索したいという思いを改めて強く持った」とも語った。

 「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の共同代表、田中美穂さん(30)も世界各地から訪れた市民団体と交流を深めたと語った。会議では「核抑止にどう対抗するかというトピックが繰り返し丁寧に振り返られた」と話し、「そこで自分が聞いた言葉を(今後)、自分の言葉で言えるかどうかが大事だと改めて感じた」と話した。

 現在94カ国が署名、73カ国が批准する核禁条約には、米国やロシアなどの核保有国や、米国の「核の傘」に頼る日本や北大西洋条約機構(NATO)加盟国は加わっていない。

緊張高まる世界、被爆国の立ち位置は 編集委員・副島英樹

 まさに核兵器禁止条約第3回締約国会議の開会中に、自由と民主主義を標榜(ひょうぼう)する核保有国フランスが、自国の核抑止力を欧州に拡大する意向を表明した。

 ウクライナ情勢をめぐって米国と欧州に亀裂が入る中、フランスが米国の代わりに「核の傘」を提供する可能性を示唆した。核兵器は保持すること自体がすでに脅しだ。それを誇示することは、核の使用をちらつかせるロシアと同じ土俵に乗ることになるのではないか。

 さらに象徴的だったのは、欧米の核同盟である北大西洋条約機構(NATO)からオブザーバー参加がなくなったことだ。米国の「核の傘」の下にありながら、過去にオブザーバー参加したドイツもノルウェーもベルギーも、今回は見送った。米国と欧州の亀裂が影響しているのだろう。

 米国の拡大抑止に依存する日本政府も条約に署名・批准しておらず、オブザーバー参加にも第1回締約国会議から背を向け続ける。岩屋毅外相は「(参加は)わが国の核抑止政策について誤ったメッセージを与える」と説明した。

 参加しない理由として、金科玉条のように語られるフレーズが「厳しさを増す安全保障環境」である。しかし、「だから核を」という思考回路をどこかで断ち切らなければ、核廃絶どころか核軍縮さえ不可能だ。

 米国の「核の傘」の下にあるオーストラリアは今回、「核兵器のない世界」という核兵器禁止条約締約国の抱負を共有している、との姿勢でオブザーバー参加した。

 条約への署名・批准とオブザーバー参加とは次元の違う話だ。オブザーバー参加しない理由を、署名・批准できない理由で置き換えてはならない。オーストラリアのように、日本は戦争被爆国としての立ち位置を示す手立てはなかったか。

 国連事務次長・軍縮担当上級代表の中満泉さんは会議の演説で、国際社会の緊張の高まりを受け、「予測不可能な状況が人々の恐怖心を悪化させ、核兵器が究極の安全保障をもたらすという誤った言説を信じる人が増えることを懸念している」と強調した。

 これはまさに被爆地・広島の思いでもある。核兵器は人類全体の脅威であるとの原則を貫き通した締約国会議の意義は、過小評価すべきではない。

 今回の議長国を務めたのは、度重なる核実験の爆発で被害を受け、2019年に条約に批准したカザフスタンだ。その一方で、核兵器の惨禍を知る戦争被爆国日本がこの条約に背を向け続ける姿は、世界の目にどう映っているだろうか。

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