記者コラム 「多事奏論」 アメリカ総局長・望月洋嗣
大統領選からの撤退を決めたバイデン米大統領は、政権初期、核軍縮の流れを復活させると期待されていた。核兵器の使用目的を、核攻撃の抑止のみに限定する、との理想を就任前に表明したこともあり、核の「ノー・ファーストユーズ(先制不使用)」の宣言を検討する、との見方まであった。
かつてバイデン氏が副大統領として支えたオバマ元大統領は「核兵器のない世界」というビジョンを掲げた。戦略上の核兵器の役割縮小という目標を明確にし、当時は関係が良好だったロシアとの間で、配備する戦略核兵器の削減に向けた新条約も結んだ。
「核なき世界」の理想を放棄し、核軍縮に逆行する方針を打ち出したトランプ政権を経て、「オバマ路線」に回帰するという希望を、米国内外で多くの人がバイデン氏に託した。
だが、2022年2月にロシ…