ローマ教皇フランシスコは、2019年11月に日本とタイを歴訪した。当時ローマ支局長だった私は、バチカンの同行記者団の一員としてローマから教皇特別機に乗り、約1週間にわたった教皇の訪問に同行した。
80歳を過ぎてもなお年数回の外国訪問をこなしていた教皇にとって、日本は特別な場所だった。日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルと同じイエズス会出身で、若い頃には宣教師として赴任を希望した地。激しい弾圧のなか信仰を守り続けた長崎のキリシタンの苦難の歴史に心を寄せ、「核なき世界」の実現を全世界に訴える意味でも、被爆地である長崎と広島の訪問を熱望していた。
行きの特別機では、教皇が機体後方の記者団の席を回る、恒例のあいさつがある。長年バチカン取材を続けている「バチカニスタ」と呼ばれる記者と談笑していた教皇は、新参者の私のところにも、人なつこい笑顔で現れた。
報道官から「あいさつだけ」…