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レノボ・グループ傘下になって初めてのFCNTの新製品「arrows We2」シリーズ=2024年5月16日、東京都渋谷区、田中奏子撮影
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 中国のパソコン大手レノボ・グループに事業承継され、経営再建を進めているスマートフォンメーカー「FCNT」。富士通の携帯電話事業として始まり、2018年に事業売却されたが、部材費の高騰や円安、競争環境の激化によって資金繰りが悪化。昨年5月に民事再生法の適用を申請し、同9月にレノボ傘下となった。今年5月、新体制となって初めての新製品を発表し、代表ブランド「arrows(アローズ)」や「らくらくスマートフォン」の開発を継続すると明らかにした。レノボからFCNTに派遣された桑山泰明副社長と、旧体制時代から事業戦略を担当する外谷一磨氏に、FCNTの成長戦略を聞いた。

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 ――昨年9月の事業承継から半年間での新商品の発表となりました。

 桑山氏「意思決定の速さがレノボの真骨頂です。FCNTは石橋をたたいて、たたいて、割れなくても渡らない、ということもありました。慎重さは悪いことではありませんが、スピード感が必要な場面もあります。今後は両方を併せ持っていきたいですね」

 ――レノボ傘下で、アローズやらくらくシリーズはどうなりますか。

 桑山氏「続けます。改善したり強化したりする点は当然ありますが、もともと持っている特徴は維持する方針です。アローズでいえば、高い防水性、1.5メートルの高さから落としても割れにくい堅牢性です。らくらくは、画面を押した時に物理的なボタンを押したときのような感触が特徴で、これはレノボ幹部も高く評価しています」

 ――5月に発表したアローズの新製品は、そうした特徴は継承されつつ、基本的な性能が上がったと説明がありました。

 外谷氏「レノボグループとしてのスケールメリットを生かしている部分です。これまでは開発力はあっても、型落ちの部品や安価な部品を使わざるを得ない場面もありました。レノボの強い交渉力や調達力を生かして、高価な部品を信じられない価格で調達できるようになりました」

 桑山氏「アローズやらくらくは独自機能が多いので、ユニークな部材が必要になり、レノボ本社から毎日のように怒られるんです。良い意味でケンカをしながら歩み寄っています」

海外展開も「チャレンジしたい」

 ――商品開発をする上で、体制や考え方は変わりますか。

 外谷氏「我々が大事にしてきた部分は、基本的には継続していきたい。レノボの幹部にスマホの中身を見せると、『クレージー』と言われるんです。それは褒め言葉で、部品の配置や設計技術の価値を認めてもらっている。例えば、我々の防水機能は、泡のハンドソープで洗っても浸水しないなど、ワンランク上を実現しています。これを残していくために、グローバルスケールで一緒に考えていく、ということをしています」

 ――これまでのFCNTの商品は国内向けでしたが、グローバルメーカーとなったことで、海外展開の可能性は。

 桑山氏「事業譲渡をする上での判断の大きなポイントの一つが、グローバルスケールです。これまでのFCNTでは到底無理だったことも、当然容易にできるようになる。レノボが持つグローバルの調達力で部品コストやサプライチェーン(供給網)の効率化を図れますし、世界で大規模な販売ネットワークを持っているので、それを活用して海外展開していくというのは、当然ありえます。第一のミッションは、FCNTがレノボ傘下できちんと再生して、まずは国内のお客様の期待に応えられるように、アローズとらくらくを提供すること。それは必ずやります。その上で、海外にも認めていただける機会があれば、どんどんチャレンジをしていきたい」

 ――新しい体制になって以降、会社の雰囲気は変わりましたか。

 外谷氏「民事再生という形になってしまったので、言葉が適切かわかりませんが、そのタイミングでは極限状態にありました。それから少し時間も経って、それぞれいろんな思いはあったとしても、前向きに取り組んでいると思います。大変な部分もあるし、心と気持ちのコントロールを一人一人が自分のペースでやっていますが、業務に関しては滞りなく、真面目に前を向いてやっています」

折りたたみ式やウェアラブル端末の構想も

 ――新しいFCNTとしての目標は。

 桑山氏「基本OSがアンドロイドのメーカーでは、少なくとも1位を目指します。前身のFCNTは、かつてナンバー1を取ったことがある会社ですから、もう一度返り咲きたいという思いはあります」

 外谷氏「ここ数年のFCNTは、日本の携帯電話市場に対して、技術革新という貢献ができていなかったことが、反省点としてあります。市場を変えるような、競合他社にまねされるような新しいテクノロジーを生み出せていなかった。AI(人工知能)の技術も出てきているので、新しい価値軸を提供していきたい」

 ――同じレノボ・グループとして、「モトローラ」との連携はありますか。

 桑山氏「モトローラのシカゴ本社とは密に連携して、例えば部品の共通化や、基礎的な部分の共同開発など、検討を進めています。ただ、日本で販売されているモトローラとは切り離して、会社としてもブランドとしても分けてやっていくという方針です」

 ――今後の新製品の予定は。

 桑山氏「ポートフォリオ(商品展開)を広げたいという思いはあります。例えば、折りたたみのアローズのアイデアもあります。国内メーカーではまだないので、第1号として出したら面白い」

 外谷氏「リングやウォッチなど、ウェアラブル(装着型)端末も考えたいと思っています。オリジナルのブランドとして出したいですね。日本は少子高齢化社会で、社会課題の先進国です。日本で必要とされる機能は、海外でも通用すると思うんです。携帯電話ではガラパゴスと揶揄(やゆ)されましたが、『ネオ・ガラパゴス』として先駆けて展開するチャンスだと思っています」(聞き手・田中奏子)

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