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 4月上旬、網干(姫路市)は春の県大会出場をかけた地区代表決定戦を控えていた。堤邦光監督は選手を集めて、言葉をかけた。

 「歴史を塗りかえよう」

 網干の「歴史」は、2027年に幕を閉じる。県立高校再編で今年4月、姫路南、家島とともに3校が統合された。

 この春、2、3年生の野球部員17人は、快進撃をみせた。監督の言葉の通り、1979年の創部以来、初めて春の県大会出場を果たした。さらに勝ち上がってベスト16入りし、これまでの公式戦で最高の成績を残した。

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2027年の閉校が決まっている網干=2025年6月11日午後7時8分、姫路市網干区、原晟也撮影

 17人はどんな思いだったのか。

 「学校がなくなる」。笹山連主将(3年)が、そのことを理解したのは、1年生の秋ごろ。学校の統合は入学前から決まっていたが、友人や両親から「再来年から野球部の後輩が入ってこないけど、野球部もなくなるのか」と聞かれた。

 後輩が入ってこなかったら連合チームになるのか、どこで練習するのか、そもそもこの場所でやっていけるのか。「先が見えない不安が大きかったことを覚えている」

 昨春に7人の新入生が入部した。だが今春の新入生は新設された姫路海稜に入学するため、もう入ってこない。部員不足で、網干が単独出場できるのは自分が3年になる夏が最後だとわかった。

 新チームが始まった昨夏、主将に立候補した。上級生がいた時は「ちゃらんぽらん」だった自分たちを「主将になって変えたい」と強く思った。

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2027年の閉校が決まっている網干の笹山連主将=2025年6月11日午後7時6分、姫路市網干区、原晟也撮影

 「言葉で引っ張るのではなく、行動で引っ張る」。グラウンドで一番最初に準備し、整備や片付けも真っ先に動いた。

 選手の雰囲気が悪くなったら、すぐにミーティングを開いた。「今年で最後の高校野球だ」「網干は今年で最後の単独出場だ」と仲間に声をかけ続けた。

 少人数でも練習の質を高めようと工夫した。打撃練習はボールを拾う時間を短縮しようとケージの中で打った。少人数で一人ひとりがボールを数多く受けられるからと、守備練習にも時間を割いた。今春の県大会はロースコアで試合を進めてピンチを守り抜き、自信をつけた。

 チームは「歴史を塗りかえたい」「網干の名を残したい」とまとまってきた。「連が主将じゃなかったら、チーム終わってるな」。同級生からの言葉がうれしかった。

 笹山主将は「自分たちとしても最後の高校野球になるし、網干として最後の夏になる。自分たちが作った最高成績を超したい」とベスト8入りを目標に掲げる。

 シード校として挑む網干の初戦は10日午前10時、ウインク球場(姫路市)で川西明峰と対戦する。

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