亡くなった夫の時計。妻は「身につけていると一緒にいる気がする」と話す=2025年3月4日午後8時22分、青森市、野田佑介撮影

 「死にたくない」

 9年前の夏、自ら命を絶った青森県警の男性警部(当時55)は、職場のパソコンにメッセージを残していた。

 メッセージに目を落とし、妻(59)は唇をかんだ。

 「『定年退職したら、大学時代にお世話になった友人に会いに行きたい』と話していた。もっともっと生きたかったはずです」

 妻は生前の夫について、「仕事が好きな人だった」と振り返る。

 夫は30年以上の警察官人生で交通分野の業務に長く携わった。警察官の仕事に誇りを持ち、交通違反の取り締まりなどの現場には率先して出向いた。

 仕事から帰ると、「きょうもがんばった。やりきった」と楽しそうに話しながら、好物の菓子をつまむ姿が目に焼き付いている。「交通課は自分の道だ」と話すその表情は充実感に満ちていた。

亡くなった青森県警警部との結婚指輪を手にする妻。「家族を大切にしてくれる夫でした」と語った=2025年3月2日午後1時15分、青森市、野田佑介撮影

 様子が変わったのは、亡くなる3カ月前。2016年4月に県警本部に異動してからだった。

 休日もほとんど休むことなく職場へ向かい、「一緒に出かけることはほとんどなくなった」と妻は言う。

 家では仕事の愚痴をこぼさない夫が、一度だけ浮かない顔をして「疲れた」と漏らしたことがあった。妻が「上司と合わないの?」と聞くと、「やるしかないべ」とだけ返ってきた。

 夫が命を絶った後、職場の机の引き出しから、家族に宛てた手書きのメッセージが見つかった。

「怒られ、怒鳴られ、必死で我慢」

 妻にはこれまでの感謝が、子…

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