「結局、1軒のために遺産分割協議書を3回つくることになりました」
ふるさと長野県にあった実家の「家じまい」を終えた男性(83)は、そう言って苦笑いした。数年前に妻を亡くし、50年以上前に埼玉県草加市内の分譲地に建てた一戸建てで、いまは一人で暮らしている。
実家は、長野県東部に位置する佐久穂町にあった。
川沿いに家々が集まり、住宅と田畑が混在する地域。2階建ての実家は、築100年以上というが、正確な築年はわからない。
実の父は1944年3月、南太平洋の激戦地ラバウルで戦死した。海軍の航空隊員だったという。母はその後、再婚。義父との間に1男2女が生まれたが、弟ははやくに亡くなり、事実上3人きょうだいで育った。いま、妹2人もそれぞれ首都圏で暮らす。
「義理の父ですけど、よくしてくれたんですよ」。男性がそう感謝する義父は、2021年春に亡くなった。母が亡くなって十数年、1人で暮らしていた義父が死亡したことで、いよいよ実家は空き家になった。
その後も、妹2人とあわせて年に数回は実家に通い、手入れをしてきた。冬場は放置すると水道管が凍る。住宅地のなかに田畑もあり、その草刈りも必要だ。でも、徐々に車の運転も不安になってきた。
男性の子ども2人もとうに独立。将来、この実家を使う見通しはない。「残されても困るので生きているうちに処分してくれ、と言われまして」。草加の家も残る。加えて長野の実家まで残しては子どもたちも大変だ。処分に動き出した。
「土地」と「建物」で異なる名義人
「実父の死」と「母の再婚」。状況はやや複雑だった。
実家が立つ土地は、登記上…