「もう殺してくれ、と母に言われたんです」
劇団ワンツーワークスの劇作・演出家古城十忍(こじょうとしのぶ)さんは、がんで苦しんだ母の最期の願いを忘れられずにいる。
終わりのみえない闘病の末。痛みで心身の自由が奪われていく中、ナースコールのひもを「首に巻いて締めて」と頼まれた。
家族がいようといまいと、金持ちも、持たざる人も。孤独な人も幸せな人も。やがて誰もに死は訪れる。最期の日を、どう迎えればいいのか――。
ようこそ、公開討論会の舞台へ
今月上演の舞台「神[GOTT]」(フェルディナント・フォン・シーラッハ作、酒寄進一訳)は、重い問いを投げかける。
安楽死を認めるべきか、そうでないか。役者だけでなく観客にも登場人物のひとりになって考えてもらう。
舞台は、長い前置きから始まる。
観客の皆さん、倫理委員会の公開討論会へようこそ。議論の後、投票をお願いします。安楽死を認めるか、認めないか。皆さんの票で決まります。よく考えて一票を投じて下さい。
台本の結末は上演当日まで空欄のまま。観客の投票(幕あいの休憩中に実施)次第で「結果」が変わる。
「生きるに値しない命」とは
「私は死にたいんです」
切々と訴える老人(78)は、安楽死で人生を終えたいと願う。
健康体だが、心は違う。
妻を脳腫瘍(しゅよう)で亡くし、生きる意味を見失った。
死の望みをかなえるかどうか。それが議題だ。
倫理委の委員らは強く反対する。
命は誰のものか。議論は、ナチス・ドイツの思想から人工妊娠中絶、ピルの取り扱いにまで波及していきます。死を自ら選ぶことに賛成か、反対か。いつか必ず来る「その時」を、観客は想像しながら投票します。はたして、投票の結果は――。公演後は、様々な専門家がゲストとして舞台に登場。約2500人をみとり、「安楽死特区」などの著書がある医師は、日本で安楽死の議論が進まない背景を語ります。
医学の専門家は、自殺しない…