Smiley face
精神科医の片田珠美さん=本人提供

 東京都内に暮らすきょうこさん(53)は、母から精神的暴力を受けてきた。親の暴言やネグレクトが「毒親」にあたると知ったのは、ほんの数年前だ。

 高校を中退し、21歳で結婚したが、娘には障害があった。義父の介護もかさなり、30歳のとき、うつ病を発症した。夫との間もうまくいかなくなり、33歳で離婚。その2年後に再婚したが、夫は発達障害のグレーゾーンで、会話がかみ合わず孤独だった。

 再婚から1年たつと、うつ病が悪化し、38歳のときに反復性うつ病と診断された。「もう死にたい」と自分を責め続けた。

 母との連絡は断っていたが、東日本大震災の後、再びつながってしまった。ある日、母が突然、野菜とともに置き手紙を残していった。手紙にはきょうこさんの悪口が書き連ねてあり、「今日はこのぐらいにしとくわ」の一文で終わっていた。その瞬間、パニックを起こし、過去のつらい思い出がフラッシュバックとしてよみがえるようになった。

 「母のことはもう、どうでもいいです」

 いま、母とは一切の連絡を取っていない。

 子が親から受けた虐待のトラウマは、後年になっても当事者を苦しめ続けることがある。精神科医の片田珠美さんは、その背景には親の満たされない承認欲求があると指摘する。

 子どもを支配しようとする「毒親」は、自身が抱いている不全感を子どもによって「一発逆転」し、解消しようとしている場合が多いという。

 一方で、親から虐げられた当事者の多くが、過去のつらい記憶を心の奥底にしまい込んでしまう。抑圧された感情は抑え込んでも出てきてしまうため、フラッシュバックの苦しさからうつ病を発症したり、薬物やギャンブル、あるいは買い物や過食・嘔吐(おうと)など、様々なものに依存したりすることもある。

 ただ、「いくら自分を痛めつけてみても、子どもを支配してきた親が変わることはほとんどない」と片田さんは指摘する。心に抱えるトラウマと向き合うには、自分の中で抑圧してきた負の感情を見つめ、何らかのかたちで「言語化」することが重要だとアドバイスする。

 また、負の連鎖は自分で断ち切るのだという自覚を持つことも大事だという。その上で、「親を許さなくてもよいのだ」と思うことが重要だと話す。(編集委員・岡崎明子、山本悠理)

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