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水俣病被害者・支援者連絡会の代表者らに謝罪するトライグループの楠瀬大吾・執行役員(手前)=2025年6月25日午後1時7分、熊本県水俣市、日吉健吾撮影
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 「水俣病は遺伝する」という誤った内容の教材を使っていた「家庭教師のトライ」を運営するトライグループ(東京)の楠瀬大吾・執行役員と伊藤元洋・九州地域本部長が25日、熊本県水俣市を訪れ、患者や患者団体に謝罪した。

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 2人は同日午後、最初に問題を指摘した「水俣病被害者・支援者連絡会」のメンバーらと面会し、楠瀬氏が「あってはならない表現で、心よりおわび申し上げます」と頭を下げた。動画投稿サイト「YouTube」で正しい内容とおわびを盛り込んだ動画を公開したほか、水俣病に関する環境省や熊本県の資料をもとに、教材作成の担当者らを集めた社内勉強会を開き、約1500人の全社員対象のオンライン研修も行ったと説明。7月には水俣病の語り部を招いた勉強会も予定しているという。

 これに対し、患者の男性は「遺伝するとか言われ、差別された幼い頃に戻された思いだ」と訴えた。連絡会側からは「行政の資料での学習では不十分」との批判が出た一方、「これを機に、水俣病の教材を一緒に作っていけないか」との提案もあった。2人は高岡利治・水俣市長にも午前に会い、謝罪した。

 誤りがあったのは、映像学習サービス「Try IT」の中学歴史で、4大公害病を動画と文章で説明する教材。水俣病は遺伝しないが、「この病気が恐ろしいのは、遺伝してしまうことです。妊婦さんが水俣病にかかり、生まれてきた赤ちゃんまでもが発症することがありました」と記していた。 同社によると、社内の教材担当者が作成。別の社員が内容を点検したが、誤りに気づかなかった。アプリでは2015年11月ごろから21年3月ごろまで、YouTubeでは16年1月から25年5月まで公開。アプリは推計7千回程度、YouTubeは7万回余り再生されたという。

 水俣病の説明を巡っては、熊本県宇城市が2月末、市内の全2万3千世帯に配ったカレンダーに「水俣病などの感染症」と誤った記載があり、市が謝罪した。水俣病は感染症ではないが、原因が分からなかった発生当初は感染症と疑われ、地域での根強い差別や偏見につながった。

 風化の懸念が広がる中、水俣病の実態を伝えるパネル展示や講演会活動を続ける認定NPO法人・水俣フォーラムの実川悠太理事長は「『義務的に覚えろ』ではやがて忘れられ、どうしても風化する。少しでも食い止めるには、自分の今にとって、このテーマがひっかかるという個人個人に印象が残る伝え方をする必要がある」と指摘する。そのため、自分の興味の範囲で気軽に足を運べる「展覧会」という形式を続けているという。

 水俣では今回の問題を受け、被害の伝承活動などを続ける団体や個人が集まり、「水俣・差別偏見を考える会」が新たに発足した。差別偏見は「今後も起こりうる」としたうえで、「起きた事象から学び直す機会や手立てをともに考えたい」と行政などとの連携を呼びかけている。

 考える会に参加する「水俣芦北公害研究サークル」は、水俣病の学びについて教職員が考えてきた。同サークル会長の梅田卓治さんは「水俣病は過去の問題と思われ、きちんと取りあげられていない現実がある。『なぜ間違えたのか』を責めるのではなく、きちんと学び直すきっかけにしてほしいし、その学びを支えたい」と話した。

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