「水俣病は遺伝する」という誤った内容の教材を使っていた「家庭教師のトライ」を運営するトライグループ(東京)の幹部が25日、熊本県水俣市を訪れた。楠瀬大吾・執行役員と伊藤元洋・九州地域本部長が午前、高岡利治市長と市役所で面会し、謝罪した。午後には、最初に誤りを指摘した患者団体の水俣病被害者・支援者連絡会の代表者らと会い、謝罪する予定。
- 事実誤認の「水俣病は遺伝」トライが訂正し謝罪 患者団体の指摘受け
誤りがあったのは、映像学習サービス「Try IT」の中学歴史で、4大公害病を動画と文章で説明する教材。水俣病は遺伝しないが、「この病気が恐ろしいのは、遺伝してしまうことです。妊婦さんが水俣病にかかり、生まれてきた赤ちゃんまでもが発症することがありました」と記していた。
同社によると、社内の教材担当者が作成。別の社員が内容を点検したが、誤りに気づかなかった。アプリでは2015年11月ごろから21年3月ごろまで、動画投稿サイト「YouTube」では16年1月から25年5月まで公開。アプリでは推計7千回程度、YouTubeでは7万回余り再生されたという。
問題に気付いた連絡会が、水俣病を巡る差別解消や啓発にあたる環境省に4月下旬に指摘し、同省が5月中旬にトライ側に対応を要請。問題が大きく報じられる中、同社は6月に入り、再発防止策を発表した。教材作りに関わる社員や責任者らに水俣病への理解を深めるための研修を実施▽YouTubeで正しい内容とおわびを盛り込んだ動画を公開などとした。
水俣病の説明を巡っては、熊本県宇城市が2月末、市内の全2万3千世帯に配ったカレンダーに「水俣病などの感染症」と誤った記載があり、市が謝罪した。水俣病は感染症ではないが、原因が分からなかった発生当初は感染症と疑われ、地域での根強い差別や偏見につながった。
風化の懸念が広がる中、水俣病の実態を伝えるパネル展示や講演会活動を続ける認定NPO法人水俣フォーラムの実川悠太理事長は「『義務的に覚えろ』ではやがて忘れられ、どうしても風化する。少しでも食い止めるには、自分の今にとって、このテーマがひっかかるという個人個人に印象が残る伝え方をしていく必要がある」と指摘する。そのため、自分の興味の範囲で気軽に足を運べる「展覧会」という形式を続けているという。
水俣では今回の問題を受け、被害の伝承活動などを続ける団体や個人が集まり、「水俣・差別偏見を考える会」が新たに発足した。差別偏見は「今後も起こりうる」としたうえで、「起きた事象から学び直す機会や手立てをともに考えたい」と行政などとの連携を呼びかけている。
考える会に参加する「水俣・芦北公害研究サークル」は、水俣病の学びについて教職員が考えてきた。会長の梅田卓治さんは「水俣病は過去の問題と思われ、きちんと取りあげられていない現実がある。『なぜ間違えたのか』を責めるのではなく、きちんと学び直すきっかけにしてほしいし、その学びを支えたい」と話した。