就職を目指す学生の長い行列ができた合同会社説明会場=2001年、福岡市博多区

 1990年代から2000年代にかけて、当時の若者を直撃した就職氷河期。働く環境の悪化に直面した氷河期世代は「ロスジェネ世代」とも呼ばれ、いまや40~50代を迎えます。人手不足が指摘されるなか、20日投開票の参院選では中高年の雇用対策を掲げる政党が目立ちます。しかし、フェミニズムや労働問題にかかわってきた文筆家の栗田隆子さんは、こう訴えます。「『氷河期』は氷河期世代だけの問題ではない。全世代の労働問題だ」。どういうことか、聞きました。

栗田隆子さんインタビュー

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 ――栗田さん自身も、氷河期世代ですね。「全世代の問題だ」とするのはなぜでしょうか。

 私自身は1994~98年に静岡大学に通い、2002年まで大阪大学大学院の修士課程に身を置いて哲学を学びました。

 自分もふくめ、大勢の同世代が就職に苦労する姿を見聞きしましたが、なぜ苦しいのかを考えると、それまでの世代とは違う状況に遭遇したということ、つまり上の世代との比較において「変化率が高い」ので、当初は大きな社会問題として注目されたのだと思います。

 ――上の世代というと、氷河期世代の親にあたる団塊世代や新人類世代、バブル世代などが思い浮かびます。

 氷河期世代は、数年のズレがあるものの団塊ジュニア世代(1971~74年生まれ)と重なります。75年は専業主婦の割合が最も高かった年とされ、氷河期世代の多くは「男は外で稼ぎ、女は家庭を守る」という性別役割分業意識が強い家庭で育ちました。「結婚や出産・育児をするのが当たり前。夫は正社員で働き、妻は主婦として夫をサポートする。働くとしてもパートとして家計を支える」といった保守的な感覚を受け継いでいるのに、そのような生活スタイルでは生きられなかった人が一定数現れた。自分が育ってきた環境と自分自身の生活スタイルとのギャップが大きく、将来の見通しがもてない人生を送ってきました。昨年出版した『ハマれないまま、生きてます』(創元社)では、そうした「ハマれない」自分の人生を振り返りました。

■ずっと「氷河期」だった

 ――就職氷河期問題は、特定の世代が損をした問題だと思う人も多いと思います。

 保守的な価値観は時とともに少しずつ変わり、正規雇用で働き、結婚や出産・育児を人生の目標とする人は減っているでしょう。求めているものが得られないギャップは小さくなっています。

 働く環境の悪化が常態化したことで「変化率」としては下がり、社会問題としては注目が集まらなくなっています。

 ただ、従来のライフスタイルと自分の生活との落差に最初に直面した氷河期世代ほどではないにせよ、下の世代も同じ問題に苦労しています。非正規雇用は長年増加傾向にあり、平均収入は低下しています。物価の状況などを考えれば事態はむしろ深刻化しています。「氷河期世代の問題ではない、全世代の問題だ」と言い続けているのはそのためです。

文筆家の栗田隆子さんの著書3冊。左から『ハマれないまま、生きてます』『「働けない」をとことん考えてみた。』『ぼそぼそ声のフェミニズム』

 ――2000年代から10年代にかけて格差や貧困が社会問題となりましたが、特定の世代の問題だと受け止められ、問題解決に向けた世論の幅広い支持を得られませんでした。

 氷河期の問題を「世代論」にしてしまったら、直接は関係がないほかの世代の関心が高まらないのは当然でしょう。同じ氷河期世代でも、男性はなんとか正規雇用の職を得た人が多い一方で、女性は多くが非正規雇用で働くことを強いられました。私もその一人です。

 非常勤や派遣などの不安定な…

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