デモクラシーと戦争⑩ ほころぶ「法の支配」
現代の世界で、権力者を縛る「法の支配」が後退しているのは香港だけではない。中国やロシアなどの権威主義国家に加え、イスラエルや米国、東南アジア諸国など民主主義国でも目立つ。
国際法違反のウクライナへの軍事侵攻に踏み切ったロシアでは、プーチン大統領が2020年、自らに都合よく憲法を改正して大統領任期を延長し、24年の大統領選で再選を果たした。
パレスチナ自治区ガザへの過剰攻撃を続け、国際刑事裁判所から戦争犯罪容疑で逮捕状が出されたイスラエルのネタニヤフ首相も、政府の決定や人事を最高裁が覆す権限を奪う「司法制度改革」を強行しようとした。最高裁が「民主主義に損害を与える」と無効判断したものの、首相は強権的な姿勢を崩していない。
全ての権力に対する法の優越を認める「法の支配」には、2種類ある。法の支配は「国内において公正で公平な社会に不可欠な基礎」であると共に、国際社会では「力による支配を許さず、全ての国が国際法を誠実に遵守(じゅんしゅ)しなければならない」。日本の外務省がまとめた24年版「外交青書」にもそう記述がある。
「世界で権威主義へのシフトが強まっていることに危機感を覚える。国内で『法の支配』を軽んじる国は国際ルールも軽視しがちで、そうした国が増えれば、各国の行動のたがが外れ、ルールに基づく国際秩序が崩れていく」。世界的な民主主義の退潮に警鐘を鳴らし、日本の役割を検討する「民主主義の未来プロジェクト」を率いる元国連大使で国連事務次長も務めた高須幸雄氏は、「国内」と「国際社会」での「法の支配」軽視がリンクして進行していると指摘する。
100年をたどる旅―未来のための近現代史
世界と日本の100年を振り返り、私たちの未来を考えるシリーズ「100年をたどる旅―未来のための近現代史」。今回の「デモクラシーと戦争」編第10回では、前回(第9回)に続き、「法の支配」が揺らぐ世界の現状を考えます。
少数派に好き放題「それは民主主義ではない」
米国も例外ではない。政敵へ…