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「桃太郎 海の神兵」DVD(松竹)

 勉強になりました。関西大社会学部の雪村まゆみ教授が3月にフィルムアート社から出した「アニメーションと国家 戦うキャラクター、動員されるアニメーター」。黎明(れいめい)期から敗戦直前までの日本アニメーションについて、戦時の国策によってもたらされた制作体制の変化を明らかにするくだりが、最も読み応えがあります。ただ、この流れのクライマックスとなる大作「桃太郎 海の神兵」(1945年4月公開)の解釈には問題あり。「日本がアメリカとの戦闘に勝利した終戦後の設定」って、それは違います。

 「一九一〇年代から一九四五年までの映画雑誌に掲載されたアニメーション関連記事およびアニメーターの手記、インタビュー録の分析を行う。なお、アニメーション関連記事に関しては、アニメーション研究者の佐野明子によって作成された『1928-45年におけるアニメーションの言説調査および分析〈映画雑誌リスト〉』が、データベースとして利用可能である」(p.24)。なにその面白そうなデータベース!

 実際、紹介されている文章が興味深い。アニメの大衆性は国策を国民に浸透させる武器として最も重視すべきであり、言葉の障壁を克服して分かりやすく面白いので南方映画工作において非常に重要、などと語る海軍省報道部の人。

 有名なマンガ家の近藤日出造は、「海の神兵」と並ぶ戦意高揚アニメの大作「桃太郎の海鷲」(43年3月公開)について「『桃太郎の海鷲』を観(み)て――漫画榮華論」と題し、こう書いています。「南方の広大な地域、幾多の民族が挙げてわが国の温かい指導下に属した今日、文化財として漫画映画が最もいろいろの難点がなく浸透していく性格を備へたものであることは総(すべ)ての有能な人々によって認められて居るところである。極言する人は、文化工作としては当分これ以外に道具も方法もない、とさへ言ふのである」

 軍人や文化人によって「文化」にまつり上げられていく感じがよく分かります。「クールジャパン」とかと相似形。

 文化文化と持ち上げられる前…

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