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 厚さ数センチの光学ガラスの板を敷き詰めた舞台の先に、相模湾が広がっていた。訪れた日は冬に戻ったような寒い雨の日で、モノクロの水平線がぼんやりと、かろうじて見えた。

写真・図版
「光学硝子舞台と古代ローマ円形劇場写し観客席」。左は冬至の朝日が差し込む「冬至光遥拝隧道」=2025年4月8日午前10時11分、神奈川県小田原市の江之浦測候所、上田幸一撮影
  • 【特集】いいね!探訪記

【撮影ワンポイント】

ころころと天気が変わる春は、撮影日の調整が難しい。初めて行った日はあいにくの雨のち霧。遠く先まで見渡せるはずの水平線も見えなかった。晴れの日を待ち再び訪れると、気持ちのいい景色が広がった。
 ただ、雨の日には岩やコケのしっとりとした質感が「和」を感じる写真が撮れる。そちらもおすすめだ。

 相模湾に臨む舞台があるのは「小田原文化財団 江之浦測候所」。米ニューヨーク在住の現代美術作家・杉本博司さん(77)が「構想10年、建築10年」でつくったアート施設だ。

 幼い日、家族旅行の帰りに、トンネルを抜けた東海道線の車窓から見た相模湾が、杉本さんの「記憶の始まった場所」だという。

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冬至の朝日が差し込む「冬至光遥拝隧道」の下には、菜の花が咲き誇っていた=2025年4月8日午前9時26分、神奈川県小田原市の江之浦測候所、上田幸一撮影

 代表作の一つが、水平線を中心に置いた構図で世界の海や湖を撮影したモノクロームプラチナプリントの「海景」シリーズだ。測候所には、7点が常設展示されている。

 アイルランド出身のロックバ…

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