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 磁石は紀元前から利用され、現代社会ではハードディスクなど記憶媒体として広く使われている。磁石のような磁性体は100年近くもの間、2種類だけだと思われてきたが近年になり「第3の磁性体」の存在が指摘されている。「現代のゴールドラッシュ」さながらに物質探しが盛り上がっている。

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大量の鉄球を持ち上げるネオジム磁石=信越化学工業提供

 理科の授業で習った棒磁石に砂鉄やクリップがつくことは、紀元前から知られてきた。一つ一つの金属が磁石としての性質を持ち、その物質を磁性体と呼ぶ。代表的なものが鉄やニッケルで、物質の中では金属原子の周りをクルクル回る電子のスピンが向きをそろえて整列する。一方向にスピンの向きがそろう磁性体を、強磁性体と呼ぶ。

 強磁性体は、古くは方位磁石として使われてきたほか、モーターや電磁石といった応用に広がった。さらに、スピンの向きを変えることで「0」か「1」でデジタル情報を記憶することができるため、現代ではハードディスクのほか、電気的に読み書きを行う半導体メモリーMRAM(エムラム)(磁気抵抗ランダムアクセスメモリー)も実現させた。

 一方で、スピンの並びはそろっているものの、向きが互い違いになる「反強磁性体」が1930年代に発見され、70年のノーベル物理学賞を受賞した。スピンの向きが交互に整列しているため、互いに打ち消し合うので、磁石にくっつく性質(磁性)を持たない金属と区別がつかない。さらに、互い違いのスピンの列では「0」と「1」の記憶はできない。発見者のフランスの物理学者ルイ・ネール(1904~2000)もノーベル賞の受賞講演で「理論的にはとても興味深いが、産業的な応用は不可能であろう」と話すほどで、記憶媒体には使えないと考えられてきた。

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第3の磁性体とは

 ところが、2020年代になり、強磁性体でも反強磁性体でもない「第3の磁性体」の存在が提唱された。反強磁性体と同じようにスピンの向きは互い違いでも磁性を帯びない原子を「目印」にすることで「0」と「1」の見分けがつき、記憶媒体として使えるという。

 ドイツ・マインツ大の理論研究チームが22年の論文で「交代磁性体(Altermagnet)」と名付けると、世界中で研究が加速。昨年も複数の研究チームが、理論的、実験的に交代磁性体の性質をもつ物質を報告した。米科学誌サイエンスは24年の重要な科学的成果として、第3の磁性体の証明を選んだ。

 ただ、強磁性体のように、実…

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