アイドルのイベントを楽しむ人たち。推し活など趣味を通じてつながる界隈(かいわい)の存在感が高まっている

 「風呂キャンセル界隈(かいわい)」に「伊能忠敬界隈」――。「界隈」を使った造語が、若者の間で近年、SNSを舞台に流行している。このユニークなブームから浮かび上がるのは、「狭く」けれども「深く」つながろうとする若者の意識の高まりだ。マーケティング機関「SHIBUYA109 lab.」所長で、若者の消費動向に詳しい長田麻衣さん(33)に話を聞いた。(聞き手・女屋泰之)

カリスマはもういない

 ――「界隈」を辞書で引きました。「辺り近所」「付近」といった地理的な範囲を指す言葉です。この言葉が2024年のユーキャン新語・流行語大賞トップ10に入りました。

 「若者が使う『界隈』という言葉は、共通の関心事やカルチャー、世界観を持つ人たちで構成されたゆるいコミュニティーです。SHIBUYA109 lab.発表のトレンド大賞でも、22年にZ世代のトレンドに共通するものとして界隈を取り上げましたが、体感ではこの頃から若者が普段の会話でこの言葉を使うようになった印象です。24年になると、『風呂キャンセル界隈』(お風呂に入ることを面倒臭いと感じる人々)、『回転界隈』(音楽に合わせて回転する動画をSNSに投稿する人々やそのトレンド)など多くの界隈が、SNS上でバズワードとなりました。若者にとっては、まさにこの界隈こそが大賞だったのでしょう」

 ――界隈が若者のトレンドにも影響していると指摘していますね。

 「昔は『女子高生のトレンドといえばこれ』というのがありました。例えば、1990年代や2000年代には、安室奈美恵さんや浜崎あゆみさんといったトレンドを生み出すような圧倒的なカリスマがいましたよね。しかし、昨今、消費の世界では、広範囲に訴求させるマーケティングよりも、『狭く』『深く』何かの領域を愛する界隈に向けたマーケティングが重要になっています。全員が好きなものが存在しないわけです」

「ユーキャン新語・流行語大賞」の表彰式=2024年12月、東京都千代田区

界隈という言葉をよく聞くようになりました。そこには人とのつながり方をめぐる若者の意識の変化があると、Z世代の若者と日々会話してきた長田麻衣さんは話します。界隈には中心がいない?そもそもなぜ界隈でつながりたいの?記事後半で深掘りしていきます。

「インフルエンサーより盛り上げ隊長」

 ――今の時代も、数十万、数百万といったフォロワーを持つインフルエンサーがSNSなどを通じて広範囲に影響を及ぼしていませんか。

 「確かにSNS時代が到来し…

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