島根県出雲市を拠点とする女子サッカーチーム「ディオッサ出雲FC」(なでしこリーグ2部)に所属していたブラジル人選手2人が、堺陽二監督(47)からセクハラやパワハラを受けたなどと訴えていた問題で、2人が9日、監督とチームを運営するディオッサスポーツクラブに対し、慰謝料など計340万円を求める損害賠償請求訴訟を松江地裁出雲支部に起こした。
2人はMFのスペナザット・ラウラ選手(27)とFWのタイス・フェヘ選手(25)で、昨年末のクラブとの契約満了後は、それぞれリトアニア、ブラジルのチームに所属している。
訴状によると、2人は2022年8月の入団初期から試合や練習の際、監督からポルトガル語で性的侮蔑発言を受けた。またクラブ側は、2人との契約で通訳手配義務があったのに履行しなかった。さらに、理事長との面会を求めた2人に対し、試合に起用しないなどと監督が不当な圧力をかけた、としている。
2人は昨年7月、心療内科で急性ストレス反応(うつ状態)と診断され、チームを離脱して通院。医師には「監督からの圧力による影響が大」と診断された。
2人は昨年11月、日本女子サッカーリーグに告発文を送り、リーグや日本サッカー協会(JFA)に対し、一定期間のクラブの活動停止や関係者の処分などを求めた。
しかし、JFAの裁定委員会は物証がないなどとして「監督に対し、懲罰を科さない」と判断(4月10日付)。一方で、監督が「普段から問題となる言葉をスラングとして口にしていたことがうかがわれる」として、「極めて不適切。指導者として猛省を要する」と付言した。
2人の代理人である藤塚雄大弁護士は、JFAの裁定を「不当だが、上訴の仕組みがない」として、「監督による侮蔑発言を認めている以上、責任を認めず再発防止策も設けないクラブと監督に慰謝料を求め、司法判断に委ねる」と説明した。
また、「日本人男性指導者によるブラジル人女性選手への言動の違法性が問われる『三重の優劣関係』の下で発生した事件。選手がクラブや監督を告発した例はめずらしく、選手の権利擁護訴訟としても注目される」と述べた。
一方、監督側代理人の井上裕貴弁護士は、JFAの裁定後の5月14日に出雲市内で記者会見した際、「懲罰を出さないということなのでハラスメントはなかった。選手の証言は信用性が全くない」などと述べた。この日の提訴を受けて、「訴状を見ておらずコメントを控えたい」とした。