久保陽奈さん(45)が違和感を覚えたのは高1の夏。兄が「うるさい」という鈴虫の声が聞こえなかった。
大学入学後、どんどん音が遠くなった。「完全に聞こえなくなるかもしれない」。そう医師から告げられた。
友達には伝えられず、聞こえなくても愛想笑い。「人の話、聞いてないよね」と言われ、落ち込んだ。
「お先は真っ暗だ」
そんなとき、生まれつき耳が聞こえない弁護士が手話を使って活躍する姿をテレビで知った。「聞こえなくても、できるんだ」。司法試験の勉強を始め、4度目の挑戦で合格した。
2007年に弁護士登録。当初は会議についていくのがやっとだったが、事務所の上司は「君が必要だと思うことは全部やる」といつでも同僚や秘書を付き添わせてくれた。15年に音声認識アプリも使い始めると、1人でこなせることが飛躍的に増えた。
そして21年、ある裁判を知る。
自身と同じように重い難聴の…