20代の女性は幼い頃から、ことばの意味を分解して考える子どもだった。
例えば友だちとの会話で「これ、かわいいね」と言うとき。「かわいい」とは、何をもってそう言うのだろう。色? 質感?
周囲には「かわいいね」と言って合わせるのだけれど、頭の中では分析的な思考がぐるぐるとまわる。
そういう考え方が、まわりの子とちょっと違うと知ったのは、小学生の時だ。
たまたま、友だちにつきそってスクールカウンセラーに会いに行き、発達障害を指摘された。そのまま支援につながり、自閉スペクトラム症と診断された。
早く特性がわかったのは、女性にとってよかったという。人とはちょっと違うことを踏まえて、なんでも入念に備えて対処した。
スケジュールは何度も確認する。書類は何度もチェックする。
周囲の物音がたくさん耳にはいってくる聴覚過敏は、耳栓をするとちょっとラクになる。自分なりの工夫を積み重ねた。
物事を分析的に考えることは得意で、中でも、おもちゃの仕組みを考えるのが好きだった。
だから、得意を生かせるように、おもちゃのメーカーに就職した。発達障害の診断を受けてはいたが、日常生活に「困って」はいなかった。会社には特段伝えず、一般採用枠で入社した。
2020年4月に入社して、商品を企画する部署でバリバリ働いた。企画書を作り、商談もして、社内コンペでも選ばれた。同僚からも、どちらかといえば頼られる存在になっていった。
「ずっと働きたい」と思ったからこそ
会社に特性を伝えようと思ったのは、ふとしたきっかけからだ。新入社員研修の時、社外カウンセラーと雑談をする中で、就職した会社は、障害者雇用に理解があるところだと聞いた。だから「何か困っていることがあるなら、この会社なら、きっと伝えた方がよい」と助言された。
この会社でずっと働きたい、と女性も思っていた。配慮がなくても仕事はできたが、ささやかな配慮があれば、負担感がすこし減るかもしれない。
そう考えて、ちょうど予定されていた社長面談の場で、発達障害の診断を受けていることや特性を伝えることにした。
ところが。面談の場で発達障害のことを伝えると、社長は逆上した。
ボタンの掛け違いの、始まりだった。
昨年12月、広島地裁である民事訴訟の和解が成立した。一般採用枠で働いていた発達障害のある女性が、働くときの合理的配慮をめぐり、会社を訴えた裁判だった。訴訟を終えた女性に、胸の内を聞いた。
ささやかな配慮希望したはずが…退職勧奨に
会社に「受けられたらうれしい」として伝えた合理的配慮は、会社にとってそれほど負担にはなるとは思えないささやかなことだった。
もし可能なら、就業中に耳栓…