将来の夢は教師、消防士、公務員――。
春の選抜大会で23年ぶりの8強入りを遂げ、「古豪復活」を印象づけた広島商。大会前の選手20人へのアンケートでは、将来の夢として「プロ野球選手」を挙げたのは4人だけ。県立学校の同校出身の監督、荒谷忠勝さん(48)は「うちはプロを育てる学校ではない」と言い切る。
野球部員は100人を超え、ベンチ入りできない部員の方が多い。かつては「精神野球」で知られ、厳しい練習をこなしたが、荒谷さんはあくまでも教育の一環と位置づけ、社会で必要とされる人材の育成に力を注ぐ。
今の球児たちはどんな高校生なのか。朝日新聞は夏の広島大会に参加する90校の監督に、各監督の高校時代と比べて考え方などが変化しているかアンケートで尋ねた。その結果、7割が変わったと回答。「デジタル社会で情報収集能力にたけている」「多様な考えを持つ生徒が増えた」「簡単に『部をやめる』と言う子が多い」との意見が寄せられた。
主体的に振る舞う球児たちの良い面を伸ばしながら、他者にも関心をもつ大人になってほしい。「そのために色々な仕掛けを作っています。管理すればいい時代ではない」と荒谷さんは言う。
仕掛けの一つが、ビジネスの世界で使われる「PDCAサイクル」の導入だ。計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)を繰り返し、よりよい業務遂行を目指す取り組みだ。
選手たちは1カ月ごとに計画を立てる。二塁を守る西村銀士主将(3年)は夏本番を前にミスをなくそうと、6月の目標を「(送球で)相手の顔付近に投げる」などと掲げた。できたこと、できなかったことを毎日チェックし、改善方法を模索している。「送球ミスはほぼなかったが、夏まで続けたい」と言う。
記録員の加藤颯太さん(同)は選手が気付かないところを一歩引いた視点で指摘したいと、「監督目線」を目標とした。視野を広げるため、毎日ごみを5個拾うことを自らに課す。「次にどう動くべきか。先回りして考えられればいい」と話す。
選手たちは日々の練習後、「野球日誌」に考えをまとめ、やるべきことを明確にしている。荒谷さんは日誌から選手の個性を把握し、アドバイスを考えているという。
西村主将はPDCAサイクルを勉強にも採り入れている。6月末の期末考査に向けて苦手な英語を克服しようと、計画を立てて英単語を覚えている。「計画するだけでなく、改善点を考えることが大事。この考え方はわかりやすい」