水俣 1956→2025

 症状に苦しみ、賠償を求める人の集団訴訟が続く水俣病について、環境省は法で実施を課せられて16年が経つ被害地周辺の「健康調査」に今年度から着手する。長い歴史の中で、被害の広がりを把握する「全容調査」が行われず、被害者団体は救済に必須と訴えてきた。だが、今回は規模が限られる上、水俣病が疑われても本人に伝えない方針で、「意味のない調査だ」との批判が強まっている。

 水俣病はチッソの工場排水で汚染された魚を食べた人が発症した公害病。1956年5月1日に熊本県水俣市で公式確認され、毎年この日に慰霊式がある。昨年、式後の環境相との懇談で、被害者側の発言中に音声を切る「マイクオフ」問題を起こした省はこの1年、地元に「寄りそう」姿勢を強調。被害者側が全容調査を改めて要望する中、学者らによる3回の検討会を経て健康調査の方針を固め、4月上旬、現地で説明した。

水俣病が発生した不知火海周辺

 調査期間は2026年度から3年で、25年度は試験的に実施。脳が発する磁気を計る脳磁計(MEG)と磁気共鳴断層撮影(MRI)を使い、水俣病の典型症状である感覚障害などの検知を目指す。この手法の開発に時間をかけてきたが、水俣病かどうかを個別に判定できる精度には至っておらず、「地域の健康状態の評価」を目的とする。また、水俣病が疑われても結果を本人に伝える想定はない。機器の設置施設が限られることなどから、対象は多くとも10前後の地域(各200人)にとどまる。

新たな「認定」判決も 全容解明の必要性浮き彫りに

 健康調査は、残された被害者…

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