その年に出来の良かった腕時計を表彰するジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)は、業界内でも権威の高い賞だとされている。昨年11月13日、そのGPHG2024で、日本の「大塚ローテック6号」が3千スイスフラン(約50万円)以下の製品を対象にした「チャレンジ部門」の大賞に選ばれた。古いメーターのようなデザインで、時針と分針がそれぞれ扇状の動きをする、「レトログラード」と称される機構の機械式時計だ。

「GPHG 2024」のチャレンジ部門を制し、「現代の名工」にも選ばれた片山次朗さん

 手がけたのは、東京都豊島区を拠点にする独立時計師の片山次朗さん(53)。スイス・ジュネーブで開催された授賞式にも参加していたが、この大賞を受けることは事前に知らされておらず、「まさか自分が、あんな華やかな場所で英語でスピーチをすることになるとは想像もしなかった。ずっと大塚の工房で独り、細々とやっていくと思っていたので……」と振り返った。

大塚ローテックの6号。アナログのメーターを連想させるデザイン。写真では0時5分を示している=後藤洋平撮影

 片山さんは、元々は時計師ではなく工業デザイナーだった。専門学校を経てトヨタ系の会社に就職し、レビンやトレノ、アルテッツァなどのデザインを担当した。30歳を機に独立すると、カメラのレンズや日用品などを手がけて生計を立ててきた。

 最初の転機は08年、思い立ってネットオークションで旋盤を買ったことだった。金属を削って金づちなどの工具を作り始めたが、父親が腕時計関係の仕事をしていたこともあり、時計ケースづくりに挑戦し始めた。次第に機械式の内部機構も作りたくなったが、時計のムーブメントは専門知識が必要で高度な技術が必要だとされている。

時計づくりはググって独学、窮地では先輩から救いの手が

 そこで片山さんが選んだのは…

共有
Exit mobile version