資本主義NEXT 復権する国家

 なお広がる格差と将来不安、ポピュリズムと権威主義の台頭、そして気候危機の深まり。ほぼ半世紀にわたり経済を駆動してきた自由市場・株主利益重視の考え方が、逆風にさらされています。

 では、次の資本主義の姿とは。2022年に始めた「資本主義NEXT」では、環境と経済を両立する「グリーン成長」の可能性や、社会の利益に配慮した新しいマネーの流れ、変容を迫られる日本型雇用の行方、株主第一主義にとどまらない企業統治のあり方などを順次探ってきました。

 コロナとウクライナの二つの危機を経て、経済への政府の関与が一層深まっています。日本の総選挙と米大統領選を控えた今シリーズは、かつて市場の後景に退いていた国家が復権する世界の潮流と向き合います。(担当デスク・江渕崇)

【解説人語】「復権する国家」 経済安保の隆盛と保護主義の台頭

 「協力」から「安保」へ――。

 経済産業省の変身を象徴するような組織改革が7月にあった。「貿易経済安全保障局」の誕生である。

 それまでの貿易経済協力局から、経済協力関係の部署を別の局に移し、代わって貿易管理と経済安保関係の部署をまとめた。いまや「経済安保」「安全保障」を冠するポストは省内に13を数える。

 経産省に「経済安保」の思想が芽生えたのは2010年、尖閣諸島沖で中国漁船が海保の巡視船に衝突した事件にさかのぼる。

 中国人船長が逮捕され、中国は事実上の対抗措置としてレアアースの対日禁輸に踏み切った。レアアースは自動車のモーターや高屈折率レンズなど日本の自動車・電機産業で幅広く使われるだけに産業界の衝撃は大きかった。

 だが、当時は日本だけが狙い撃ちされたと欧米で受け止められ、中国への懸念は国際的に共有されにくかった。日中経済の相互依存もあり、経済界は事を荒立てたがらない。省内に対中懐疑派が現れる一方、中国からの「現世利益」を重視する考えも根強かった。

募る危機感「日本は取り残される」

 米国の対中警戒感の強まりが、風向きを変え始める。経産省は、将来のエース候補を日本貿易振興機構(JETRO)の海外拠点に出向させる習わしがある。在外公館に頼らない同省独自の情報収集ルートだ。彼らから15年以降、注意喚起の報告書が届くようになる。

 「米国は、(中国の政策に関…

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