NHK連続テレビ小説「虎に翼」は、日本初の女性弁護士にして裁判官になった三淵嘉子さんをモデルにしたドラマ。ただ、この朝ドラは主人公の寅子(ともこ)(伊藤沙莉)だけではなく、群像劇としての魅力がつまっている。ジェンダーの視点から社会学を研究する木村涼子・大阪大教授は、専業主婦の花江(森田望智)が気になる登場人物の一人だという。親友として、家族として、寅子と並走する花江は、仕事に生きる寅子とは対照的に家庭に生きる。花江の魅力とドラマが現代に映すものとは。木村さんに聞いた。
――花江はどのような人物だとみていますか。
日本初の女性弁護士にして裁判官の寅子は、新しい時代の女性であり、専業主婦の花江は古風だと評されがちだが、決してそうではありません。花江もまた、先進的でアイデンティティーを確立しようとしている女性です。
昭和初期は、都市部の中流階級層で専業主婦のライフスタイルが広がりつつあったので、花江も自然に選んだとみています。当時は、職業婦人ももてはやされましたが、学校卒業後にいったん、職業婦人になっても、結婚・出産したら、仕事を辞める若い女性がほとんど。寅子も弁護士という資格職であっても、結婚や出産を機に一度は専業主婦になりました。「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業には花江も寅子も巻き込まれていると言っていいでしょう。
もちろん、花江、寅子の各家庭は、都会のホワイトカラーの家なので、めぐまれた位置にあります。都会でも工場労働者、あるいは農村や山村のように、子どもがいようがいまいが、女性が生活のために働き続けることが当然という階層からみれば、特権的ではあります。
「兄の嫁」に涙 現代に通じる「○○さんの妻」問題
――では、花江のどんな点が先進的なのですか。
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私は、戦前の婦人雑誌の研究…