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 「行くぞ」「おしっ」。男たちの声が響き、四方から押されたみこしが激しく動く。かさ上げ地に立つ集合住宅や民家から、年配の住民らが出てきて笑顔で声をかける。

 5月3日、宮城県女川町、白山神社の例大祭。呉藤(ごとう)岳登(たけと)さん(18)も白装束を借り、担ぎ手をまっとうした。「ハードだったけど楽しかった。地元の人との距離も近づいたと思う」

 3週間前、移住して地域と関わりながら学ぶ「さとのば大学」の4年制コースに入った。石川県加賀市の親元を離れ、縁のなかった女川で同期生や一つ上の先輩と、シェアハウスで暮らし始めた。

  • 地方での実践を通じた学びが糧に 「さとのば大」発起人の信岡良亮さん

 週3日は午前9時からオンラインの講義があり、北海道、秋田、長野、京都などに散っている「さとのば生」たちと共に約3時間学ぶ。ほかの平日はホームルームもある。

 5月は、各地域の社会課題を解決する「ソーシャルデザイン」の活動について伝える演習があった。滞在地域での取り組みをネットで調べ、設問を作ってクイズを出し合う。解答者に驚きや発見を与えるクイズを考えるのは、意外に難しかった。

 高齢化が進む町の住民が活力を取り戻した事例のドキュメンタリーを見て、気付いた点や意見交換をした日もあった。自分の強い点や弱い点、伸ばしたい力を、それぞれ見つめて項目別に評価する試みも体験した。

 講義の参加者は十数人。講師やアシスタントが進行するが、一方的なレクチャーの時間は短い。各自がオンラインツールを活用した演習に取り組み、それを基にした発表、意見交換などから学ぶ。

 呉藤さんが入学したきっかけは、大学受験の勉強に違和感を感じたことだった。

 高校で探究学習が面白くなり、地域活動に参加する部活に入った。同級生たちと子ども食堂の運営の手伝いをし、小学生と遊び、農家や企業の大人とも接点ができた。

 だが3年生になると入試対策の授業が増えた。周りも受験一色に。暗記、過去問、偏差値……。大学を目指す意味がぼやけ、学ぶ楽しさは消えた。身が入らないまま受けた国公立大は不合格に。県内の私立大には合格したが、どうするか――。

周りと違う道でいいのか

 さとのば大は、夏の短期プロ…

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