酒井啓子・千葉大特任教授

 近代化以降、日本にとって西洋は目標であり続けた。ただ中東についていえば、欧米の植民地支配や覇権主義を手本にしたことはなかった。それが戦後、独自の中東外交と当地の強い親日感情につながった。だがその遺産を日本は90年代以降に食いつぶしてしまった、と酒井啓子・千葉大特任教授は語る。

 ただ、2023年秋のイスラエルによるガザ攻撃開始以降、パレスチナ問題をめぐり欧米の外交と言論空間が大きくゆがみ始めている。そんな時だからこそ、まだ日本にも貢献できることがあると酒井さんは言う。どんな役割を私たちは果たせるのか。

オリエンタリズムの時代から独自外交へ

 明治以降の日本の中東像は、欧米という鏡を介した、ねじれた鏡像でした。

 福沢諭吉は幕末にエジプトを訪れ、列強に支配される「遅れた文明」の姿を反面教師として、まさに脱亜論の視点で描きました。一方、右翼思想家の大川周明のようなアジア主義者は反欧米の立場から、アジアの延長として中東の解放を訴えます。どちらも典型的な近代日本人の中東観と言えますが、両者は正反対に見えて、実は欧米のまなざしを内面化している点は同じ。そこにあるのはオリエンタリズムです。

 ただ、紛れもなく欧米とは一…

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