鈴木順子さん(中央)の作品づくりを見守る母もも子さん(右)と武田康明さん=2025年3月22日、兵庫県宝塚市の工房Yas、小池淳撮影

 20年前の事故で脳に重い障害を負った女性が、陶芸に打ち込んでいる。理不尽にも背負わされた苦難から、ひととき解放される自由を求めて。

 

 ――鈴木順子と申します。昭和50年生まれです。(年齢は)出てこないですね。計算しても、すぐ忘れますし。(事故の事は)ほとんど記憶はないですね。電車に乗って、どこに行って、ということも理解できてないですね。

 

 2005年4月25日の朝、兵庫県西宮市の鈴木順子さん(50)はJR宝塚線の快速電車に乗っていた。大阪市内で職業訓練の講座を受けるため、2両目のシートに腰かけていた。尼崎市内の右カーブに差し掛かったとき、電車は時速約116キロで曲がりきれずに脱線し、線路左側のマンションに突っ込んだ。建物の角に衝突して「く」の字に折れ曲がった車両から順子さんが救出されたのは、事故の5時間後だった。

 20年後のいま、順子さんは高次脳機能障害の後遺症に苦しむ。事故で脳に損傷を受け、身体を自由に動かすことができない。家の中では伝い歩きができるようになったが、移動は車椅子だ。記憶障害があり、事故前のことは覚えていても、事故後は少し前のことも忘れてしまう。

 そんな順子さんは、20年の…

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