女性が書いた日記。「ふりむいてもらおう!大作戦」と題している=2025年6月、大阪市北区、武井風花撮影

 大阪市北区のビルを5月に訪れた。8月29日まで開かれる「誰かの手帳」を読むことができる催し「北浜手帳ライブラリー」の事前取材のためだ。

 公開される手帳は寄贈や貸与を受けた200冊以上。働きながら英検合格を目指した道のりを記した手帳、50年間記録し続けた分厚い装丁の日記……。2時間かけて読み進めた中に、心引かれる日記があった。

 書き手は女性。薄い紫色のペンで「ふりむいてもらおう!大作戦」と書いてある。好きな人を振り向かせるための「作戦」が、細かく、丁寧な字で続く。そして、告白が失敗したことを境に、書きなぐるような筆致の長文に変わっていった。

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 この女性は、どんな人なのだろう。どんな思いで書いたのだろう。気になって取材を申し込むと、福岡市に住む25歳の会社員だという。寄贈した日記を見るために催し会場に来ると聞き、大阪の会場で会った。

 5年前、大学生の時に好きになった彼のこと。どうしたら好きになってもらえるのか、「作戦」を練ったこと。12月、クリスマスマーケットでのデートと告白、返事は何だったのか。

 「あれ、いつだったっけ」。思い出せないことがあると日記を繰って確認し、「ここですね。12月のことですね」。楽しそうに振り返っていた。

 なぜ、デジタルの時代に手書きで日記を書いたのか。実は、幼少期から何かといえば日記に書きつける習慣があったそうだ。「友達もずっと恋愛の話だと飽きるだろうし、誰にも言えない気持ちを書いていました」。「今この瞬間、生きている」という実感も得られるという。

 日記は、自分の気持ちを整理し、思い出を残しておくために書くものだ。その分、とりつくろわない本音がつづられる。普通は公開されることもない。

 女性は、日記に書いたことは「黒歴史」というが、私はその飾らない思いに共感した。日記は巡り巡って他人の心を動かす力も持っていると感じた。

 取材を終えて、学生時代に使っていた自分の手帳を段ボールから引っ張り出した。余白に部活や就活での悩みが書いてあって、「こんなことで悩んでいたのか」と懐かしくなった。

 社会人になってからの手帳には仕事のことしか書いていない。けれど、これからはちょっとした日々の感想も書いてみようかな、と思っている。

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 たけい・ふうか 2021年入社。仙台、京都を経て、4月から大阪本社ネットワーク報道本部。大阪市の「キタ」エリアを中心に取材している。

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