韓国の2024年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数)が、0・75(暫定値)となりました。前年の0・72より上昇したものの、世界的にも異例の「超少子化」が続いています。どんな背景があるのか。家族社会学やジェンダー研究が専門で、韓国で長く研究生活を送った茨城大講師の笹野美佐恵さんに聞きました。
――韓国の24年の出生率は9年ぶりに前年を上回りました。
コロナ禍で延期していた結婚が増えたため、といった分析が出ていますが、少子化の構造的な要因は変わっていません。今後、少子化のトレンドが反転し、引き続き出生率が高まっていく、とは単純にはいかないのではないかとみています。
――韓国の超少子化の背景には何があるのでしょうか。ソウル首都圏への一極集中で高騰する住宅費や教育費の負担の大きさなど、経済的な要因がよく指摘されています。
それらも要因ではありますが、私は、そうした要素だけでは説明できない「価値観の変化」が大きな要因になっていると思います。韓国は急速な経済発展を遂げましたが、その過程で生じた急激かつ大きな価値観の変化に注目しています。特に若い女性の間で変化がはっきり表れています。
――どんな変化が起きたのですか。
「娘には自分とは違う人生を生きて欲しい」 大学進学あきらめた母親の思い
今20代後半から30代前半の若い世代を「娘世代」として考えると、その「母親世代」が育ったころの韓国はまだ今のように豊かではなく、きょうだいも多く、大学などへの進学を望んでも男の兄弟が優先され、諦めざるを得ない女性が多くいました。こうした母親世代の多くは、自分の娘には自分とは違う人生を生きて欲しいと、教育への投資に力を入れました。
その結果、現在「娘世代」の…