ファクトチェック

ファクトチェック対象=小泉進次郎農林水産相の発言

 「農林水産予算を10倍???23兆円にするってことですよね…。やっぱり野党は無責任」

 (小泉氏の自身のX=旧ツイッター=への7月3日の投稿から。立憲民主党・野田佳彦代表の3日の演説内容を伝えるNHKの報道を引用し、これに言及した)

「農業人口が増えるように」

 小泉農水相のX投稿は、16日時点で約136万件、表示されている。

 投稿のきっかけは、立憲の野田代表が参院選公示日の3日に宮崎県国富町で発した演説の発言だ。小泉氏が引用したNHKのニュースでは、野田氏は「もっと農業人口が増えるようにするための予算を10倍にしたい」と述べたと伝えている。

第一声をあげる立憲民主党の野田佳彦代表=2025年7月3日午前9時47分、宮崎県国富町、小宮路勝撮影

 この発言の後には、野田氏は「(過去最大だった)1982年当時は農林水産予算は3兆7千億あった。右肩下がりで今2兆2千億じゃありませんか。少なすぎるでしょう」とも語っていた。

 立憲は参院選の公約でも、「就農支援の資金を10倍に強化・拡充」と記載している。今年度当初における新規就農者育成総合対策予算は107億円で、10倍にしても1千億円程度だ。

 野田氏が、今年度当初における農林水産予算全体(2兆2706億円)を10倍にしようとしているという小泉氏の主張は、野田氏の発言の趣旨を取り違えている。野田氏は翌4日、鹿児島市の街頭演説で、「厳しく抗議したい。新規の就農をはかるための予算を10倍にしようと言ってるんです。それを切り取るなんていうのはフェアではない」と述べた。

 小泉氏は16日午前8時現在、Xの投稿を削除していない。14日に取材で誤認を指摘すると、「(野田氏の)発言を全部読んで頂くと、新規の就農者に対する10倍ということも触れつつも、その後に予算全体のことについても触れている。これは、どう読むかという中で、いろんなやりとりがあるんじゃないですか」と答えた。

    ◇

農林水産業をめぐる環境は激変

街頭演説をする小泉進次郎農林水産相=2025年7月4日午後0時17分、秋田市、川辺真改撮影

 2人のやりとりは、農林水産予算の総額を巡って続いた。

 小泉氏は4日の秋田市の応援演説でも、野田氏の「右肩下がりで今2兆2千億」発言について批判。「とんでもない。民主党政権のとき毎年農水省の予算は減らされ続け、なんと、近年、一番農水省予算が少なかったのは、野田元総理のときに2兆1千億円なんです。野党はこういう無責任なことばっかりだ」と述べた。

 この発言についても検証してみた。

 野田氏が「3.7兆円から2.2兆円に減った」と指摘している予算は、1982年度と2025年度の一般会計の農林水産関係当初予算とみられる。この予算が00年度以降で最少だったのは、確かに、野田氏が首相時代に編成した12年度予算(2兆1727億円)だ。

 ただ、1982年度と2012年度、そしていまとでは、農林水産業をめぐる環境は大きく異なる。

 支援の対象となる第1次産業の就業者数は、1982年の548万人から、2024年には半分以下の192万人に減った。食生活が変化し、国内で自給できるコメから、パンや麺に需要がシフトしたことが主な原因だ。原料の小麦は輸入に依存している。

 コメ政策も、1982年度当時は食糧管理制度があり、国がコメの価格や流通を統制していた。この制度は巨額の赤字を出し、税金を使うことへの批判が高まったため、95年度に廃止されている。

 そもそも予算は、時々の状況に応じて社会保障や教育など様々な政策に優先順位をつけ、柔軟に見直すべきものだ。野田氏と小泉氏の論戦のように、農林水産予算の総額だけを単純比較する意味は乏しい。

【判定結果=誤り】

誤り

 野田氏の「10倍にしたい」とする発言は、新規就農者を増やすための予算を対象にしたもので、農林水産予算全体を10倍にしたいという趣旨ではない。

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